結局、夕飯は彼らと共に過ごした。私が食べ終わるまで幸村君は戻ってこず、乾君からの質問攻めにあった。いやもうあれは尋問といっても過言ではない。質問の内容は幸村君との関係や生い立ちに関することが主だった。
彼らが食べ終わった後も私は元いる端の席に座り続けた。幸村君を待とうと思う。少しびっくりさせてやろうという、可愛い悪戯心である。私と幸村君は友達なんだ、自分の帰りを待っててくれたら私なら嬉しい。乾君と不二君と別れて約数分、盆を回収しに来た男性が私の分もさげていいか聞かれた。肯定のかわりに、長居してすいませんと頭を下げた。「いえ、どうぞおくつろぎください」と一礼したあたり、レベルの高さをうかがうことができる。さすが跡部財閥。
「あれ、波江?」
「おかえり、幸村君」
「もしかして、待っててくれたの?」
「うん…あ、ごめん、迷惑だったかな」
「ううん、すごく嬉しい。ありがとう」
幸村君の綺麗な笑みに、口角が自然とあがる。盆にのせてきたのはパスタにサラダ、バランスを考えた選択だった。そもそも食事のバランスは選手にとっては生命線、バイキングにすること自体失敗だろう。
「波江」
「?」
「お疲れさま」
思わず目を数回、ぱちくりと瞬きさせた。何を言ってるんだ、それを言わないといけないのは私だし、幸村君の方が断然頑張っているのに。
「ずっとまた効率のよさとか考えてたんだろ?」
「え」
何で分かったんだ幸村君。結局まだ打開策は浮かんでこないが、確かに考えていた。まさか、柳君に聞いたのだろうか。本当に柳君は侮れない。
「なんで分かったんだろうって顔してるね。ずっと一緒にいたし、波江のこと見てたら分かるよ」
「あ、なるほど」
「無理しないでよ」
「は、はい。ごめんなさい」
「ふふ、よろしい」
観察眼に長けているということか。さすが幸村君。そりゃ何ヵ月も一緒にいれば、大体予想つくようになるのかもしれない。幸村君の注意に少し反省感を抱いてしまった私は素直に謝った。選手に心配をかけるようではいけない。それに幸村君が言うことも一理あるかもしれない。改善しよう。あ、あと柳君ごめん。
「一人で食べたの?」
「いや、なんか変な人たちが相席して来たかな」
「変な人たち?」
不二君と乾君を「変な人たち」でひとくくりにしてしまった。それに対して幸村君が露骨に眉を潜めた。きっと不信な人間じゃないかとか、私のことを気にしてくれてるんだろう。その気遣いだけで私はすごく救われる気がした。いい友達をもった。
「でも、幸村君と一緒に食べる方がいいかな」
「!ほ、本当?」
「うん、すごく落ち着く」
幸村君はほんのりと頬を紅潮させて幸せそうに笑った。そんなに嬉しかったか青少年、と率直に上から目線で思ってしまってごめんなさい。