群集心理 | ナノ




夕方からは外周マラソンが行われた。立海とあまり変わらない敷地面積の外周を4周となると、5キロメートルはありそうだ。マラソンを終えた選手達のためにとキャスターつきのかごにドリンクを入れて配置した。部員一人一人に手渡しだとあまりに非効率なので、いつもドリンクを配付するときはこうだ。

その後、体の柔軟をして一日目の練習は終わった。タオルは洗濯機に放っておけば勝手に洗い流してくれるのでいいのだが、問題はドリンクだ。何せ洗うにも時間はかかるわ調合するにも時間はかかるわで最悪的だ。今以上に迅速かつ味も抜け目ない仕上がりにしなくては、遅れをとる可能性が高い。選手をサポートするマネージャーが遅れをとっては話にならない。


「波江!」

「ふおお!ゆ、幸村君どどどどどどうしたの」

「どもりすぎだよ」

「ご、ごめん」

「跡部に呼び止められちゃってさ、もしかしたら一緒に夕飯食べられないかもしれない」

「…そっか」

「本当にごめん」

「なんで謝るの?大事な話なんだから仕方ないよ。明日一緒に食べよう」


あ、自分さりげなく明日も一緒に食べようって誘ってるよなこれ。いくら一緒に食べたいからって、イケメン紳士な幸村君相手に自分の都合の良さを押し付けるなんて最低だよ私!
しかし喜色満面にありがとうと言ったあたり、嫌悪感を抱かせることはなかったようだ。いや、むしろ喜んでいる。あ、そうだ私たち友達だったんだ。申し訳なさすぎてよく友達であることを忘れてしまう。自分がこんなでは幸村君に失礼だ。ちゃんと悔い改めよう。


夕飯にきてとうとうぼっちフラグを折りきれなかった私は結局昼食と同じメニューを盆の上に置いた。右端の入り口から一番遠くにあるすみにぽつりと座り、両手を合わせた。正直、ぼっちだ何だ言ってる私だが、中学生に紛れて一人で行動することに関してはなんの抵抗もない。むしろ落ち着く。どちらかというとあまり関わったことのない、気まずい人と一緒になるよりは好ましいとすら思う。


「相席、いいかな」


だから、まさかあの青学の不二君が正面に現れるとは思わなかった。内心訳が分からず慌てふためいているが面にはださない。どうぞと愛想笑いをすれば、ありがとうと返ってきた。


「あの、」

「?」

「失礼ですが、なぜ私の相席に座ったんですか?」


テーブルはと言われれば空いてる場所がいくつもあるし、第一彼には友人がいるだろう。その友人をほって、わざわざ私の相席に座ったのだ。何かしら用があるのだろう。


「ごめんね、用は特に何もないんだ」

「へ?」

「ただ興味がわいちゃってさ」


想定外な言葉に、思わずすっとんきょうな声をあげてしまった。興味と言いくるめられては、漠然としているために余計訳が分からなくなる。不二君が興味をよせるような行動をした覚えもないし、むしろ私は一般的な学生だ。たまたまマネージャーで来てはいるが、おもしろい設定などもってのほかだ。不二君の考える己の興味の対象を知らない限り、このもやもやは一生取り除かれないだろう。


「私、不二君が思うようなおもしろい人間なんかじゃないよ。むしろつまらないかも」

「クス…自分で言うんだ」

「事実なので」


何事もなく毎日を過ごせる素晴らしさを私は知っているから、辛くはない。むしろこの第三者から見ればつまらないだろう平和な毎日を、過ごしていきたいとすら思う。そう考えれば、ふとこんな物事の見方ができる私は本当に幸せ者なんだなと気づく。日常風景に幸せを盛り込むと、幸せと隣り合わせになって生きているようだ。
そう自覚して頬が少し緩むと、思わぬ横槍に私は現実へと引き戻された。


「やあ不二。俺も相席失礼するよ。いいかな?佐々木波江さん」

「は、はあ…」

「へえ、乾も来たんだ」

「ああ。佐々木波江に興味がわいてな」


そしてなぜか途中参戦してきた乾君。ひいい柳君の化身んん!なんなんだデータばかりとりやがって。私はデータをとるにあたいするようなすごい人間じゃないんだってば。
「柳に君のことを聞かせてもらったよ」と言われたときはもう目眩で倒れそうになった。

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