群集心理 | ナノ




初めて佐々木波江という女に会ったのは夏の全国大会の時だった。立海テニス部のあのメンバーと並んで歩くには、少しぱっとしない外見であったのは確かだ。

俺がテニス部の部長(キング)になったのは、悪く言えば無理矢理だった。上級生に俺様との圧倒的な実力を見せつけ、いやがおうにもそう言わせた。そのせいかキングになった俺様は、実力はあったが信頼はなかった。勿論全くではないが、下級生が生意気言ってキングになった。そう考えればやはり良く受け入れてはなかっただろう。

そんな俺様に目もくれず、挑発にのらず部員の士気をあの女は上げやがった。そこには俺様がまだもってない信頼感も友情もあった。

「俺たち立海が一つになれば、絶対に優勝できる」

その幸村の言葉で終止符を打ったが、発端は間違いなくあの女。俺様の挑発に全員固唾を飲んでいたからな。あの女の一言で、部員全員が左右された。

俺なら無理だっただろう。弱気とかじゃねえ、事実だ。調子にのりやがってと思われるのがオチだっただろう。俺様が今見習うべきは幸村ではなくあの女だ。試合に負けてそう実感した。

あの女、佐々木はマネージャーとして文句のない働きをしている。いや、むしろ一人であれだけの働きができるとは思わなかった。手際も効率も良く、ドリンクもうまいかなりの逸材だった。あんな庶民に俺様は今尊敬の念を抱いている。
恐らく、努力を惜しまないのは佐々木も同様だと言える。だが俺様は頂点に立つ男だ。佐々木に恥を忍んで信頼の秘訣を聞いたところ、返ってきた言葉はこうだった。


「気遣いだよ。気遣いの有無で、相手の自分への見方が変わるから。例えば休憩時間に疲れて倒れ込む部員がいたら、保冷剤とタオルを持って大丈夫と声をかけるの。些細な行動をこうしてひとつひとつ積み重ねていけば、自然と信頼されるようになるよ」


そして俺様に向かって、「跡部君、頑張って」と言った。この俺様にアドバイスをした同年代の人間なんて佐々木くらいだ。はっ、おもしれえ。佐々木が驚愕するくらい全員から信頼を得てやる。

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テーマ「人外ファンタジー」
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