群集心理 | ナノ




今まで読書するための本は図書室でかりていた。買いにいくのも金銭的にもったいないし、何しろここは蔵書が多い。さすが私立と言うべきか、中学校とはとても思えない広さと量をかねそろえていた。むしろこれだけ充実した図書室を活用しない人が不思議で仕方ない。

大体入口すぐに見える新冊コーナーには、生徒からのリクエストや最近出た有名な小説も多い。中学生が読むような漫画めいた小説も嫌いではないし、むしろ好きだ。しかしアニメがやってたらちょろっと見る程度でいいと思ってるから、特別借りたいとは思わない。

図書室の奥の方へと足を進めると比例して、本の独特な匂いが鼻をかすめる。ひどく肩の力を抜かれる私の好きな香り。普段は植物に関する本ばかりを借りていたけれど、たまには詩集なんて借りてみようかな、と思ったところで背後から声をかけられた。


「あ、柳君」
「佐々木がここに来るなんて珍しいな」
「そうかな。柳君は何を借りにきたの?」
「グレート・ギャツビイという本だ」
「え、スコット・フィッツジェラルドの?」
「ほう、まさか知ってるとは思わなかった。精市や弦一郎ですら知らなかったからな」


そりゃそうだろ、と心の中で突っ込む。中学1年生が読むような小説ではない。小説といっても、作者が死んで30年くらいはたつだろうから古典小説と言うべきか。22歳の私でもたまたま知ってるだけであるが、成人してる者でも知らない人の方が多いだろう。


「そう言う佐々木は何を借りにきたんだ?」
「詩集を読みたいな、って思って来ただけなんだ」
「そうか。ランボーの詩集なんてどうだ?」


ランボーって中学生が知ってるものなの?確かに有名ではあるが、世界史もまだ習ってないのにランボーという単語を一体彼はどこで覚えたのだろう。


「字が生命の息吹を吹き込んだかのように生き生きとしていてな。独創的でなかなかにおもしろいぞ」
「…そ、そっか」


つくづく柳君や幸村君には、22歳の私ですら劣っている気がしてならない。博識だね、と言うと柳君は不思議そうに「佐々木も十分博識だろう」と言われた。なんでやねん、とまた心の中だけで突っ込んだ。

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