群集心理 | ナノ




「よっし、それじゃー委員決めるぞ!」


始業式から次の日、久しぶりに見る担任の筧先生が教卓に立った。野球部の顧問らしく日焼けした体と白すぎる歯は絶妙なミスマッチをうみだしている。


「中期の委員は体育祭運営・美化・保健・委員長・副委員長・図書の7つだ!20分まで友人と相談OKだから前期に入ってないやつはよーく考えて決めるんだぞー!」


委員会、そういえばまだ私は入ってない。ここは珍しいことに、学期ごとに前期・中期・後期とあるらしい。後期は1月から3月と寒い時期が続くから、中期で入っておきたい。


「波江、一緒に美化委員しない?花の世話もできるし」
「そうだね」


私達が屋上庭園で育てている花の管理を委員の仕事の一つにいれてもらいたくもある。いや、でもお粗末に花を扱うような人がいたら困るからやっぱいいや。

机に出した小説を手にとった刹那、ものすごい勢いで疾風と共に掘さんがとんできた。


「あああの波江ちゃん!いい一緒に体育祭運営委員やりたいな…!」
「え、いや…」
「それは聞き捨てならないな。波江は俺と先に美化委員になるって言ったんだから、残念だけどあきらめてよ」
「で、でも、私波江ちゃんと一緒に…」
「聞き分け悪いと嫌われるよ」
「いや、あの二人とも、今授業中…」
「……っ、でも私は波江ちゃんと一緒に委員に入りたいの!だって友達だもん!!」


いや聞け、お願いだから。堀さんも誘ってくれるのは嬉しいけど声でかいよ。ってか必死すぎるよ可愛いよ堀さん。

明後日の方向に思わず顔をそらした。これは耐えられない。するとちょうどノートにくらいつく平松君の姿が見えた。…が勿論笑いは抑えきれないようですごくにやけている。悪いけどはたからみたらキモい。にしても何をノートに書いてるんだろう、授業始まってないからまだ宿題も出てないのに…。


「それなら俺だって波江の友達だよ、堀さんよりずっと一緒にいるし」
「この際っ、時間は関係ないの!」
「……は?」
「私と波江ちゃんが友達なことが大事なの!」


うわあすごく火花散ってるあちちち。この戦争の火種になった私は何なんだ。言わずもがなただの女子中学生だ。特別可愛いとか裕福とかそんなオプションもないし、特殊な能力を持ち合わせたわけでもない。ただ頭脳は大人だけど、二人は勿論知らない。ようは、私はとりあいされるような魅力のある人間では決してないはずだ。ましてやいずれは神の子と呼ばれる幸村くんなんかに。あ、まあ今はまだ待遇されてないからわからないのかもしれない。

なんせ漫画のタイトルが「テニスの王子様」なのだ。容姿も完璧なわけだし、テニスも強いし頭もいい。この逸材を女の子が見逃すわけない。

にしても堀さんの持論がすごく男らしい。そうか、これがモノホンの天然というやつか。


「堀さん」
「波江ちゃん!」
「私体育祭は部活の合宿と被ってていけないから、体育祭運営委員にはなれないんだ」
「ええええ!!」


そしてまさかの告白。ごめん堀さん。心の中でそう謝罪すると、堀さんはまるで世界が破滅することを知ったときのような絶望に満ち溢れた顔になった。ぼろぼろと大粒の涙が頬を伝い、私もまるで死を宣告されたかのような痛切な気持ちになった。


「波江ちゃん…っ、行っちゃやだよ、合宿、」


寂しいよ…そう抱きついて嗚咽をあげながら言われると私の母性本能がフル可動した。そうだ、堀さんを安心させないと


「大丈夫、私はちゃんと帰ってくるから」
「で、でもっ!」
「帰ってきたら一緒に遊びに行こうね」


悪乗りはしてない。でもなんか死亡フラグたってる。

優しくそう言いかけると、堀さんはさっきまで見せた泣き顔が嘘のように輝かしい。まるで手術に成功したみたいな顔。幸せそうに破顔し、抱き締める力が少しいやだいぶ強くなった。

それを見た筧先生は「なんて素晴らしい…これぞ青春の鏡だ!」と感動しクラスメートから拍手を送られた。なんだこれ。

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