群集心理 | ナノ




「佐々木ー、ちょっと来てくれないか」


そう彼女が呼ばれたのは6時間目のホームルームのこと。夏休みの懇談会の話の後だった。担任が生徒を呼んで廊下に出るときは、個人的なプライバシーに触れる話が主だ。何を話してるんだろう。そう思っていた矢先、クラス中が波江の話題をあげはじめた。


(佐々木さんって頭いいよね)

(でも妙に大人しくねーか?中学生じゃないみたいな…なんていうかな)

(静かすぎてちょっと話しかけずらいよね)

(私、佐々木さんが笑ってるとこ見たことないんだよな〜)

(幸村くんと会話してるとよく笑ってるとこ見るよ)

(あー、幸村と仲いいよな)


俺は陰口があまり好きではない。けれどこれは陰口なんかではなく、客観的にみた波江の感想だろう。
妙に大人しすぎる、その言葉が胸につっかかる。植物のことになるとすごく必死になるんだけどな。でも少し同調してしまう自分もいる。俺も十分、大人しい。大人しさでいえば波江と同じくらいかもしれない…違うのは優しさだ。俺は自分で言うのもあれだけど、相手を安心させる優しさだ。けれど波江は相手を遠慮させる優しさだ。波江の好意を認識できる俺は学校でいつも一緒にいるからなしえるわざだ。初対面の人を相手にすれば間違いなく、遠慮をさせる。人と少し距離をおいてるんだ。
俺と話しているときよく笑う、か。今まで気づかなかった。いかに自分が客観的に物事を見つめてないかも勿論痛感したけど、それ以上に嬉しかった。

クラスの話題の方向性がズレた頃に扉が開いた。出てきた波江は少し沈んでいて、焦点がまるで合ってなかった。大丈夫、と声をかけると驚いてこちらを見返した。


「何か思いつめてるようだったけど」

「…え、ああ、大丈夫。ごめんね」


眉を下げて笑う波江の様子がやはり何かあったことを雄弁に物語っていた。

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