群集心理 | ナノ




「このクラスの担任になった筧(かけい)修造だ!今年1年よろしく頼むな!」


これが転生後初めて受ける中学校の授業。あんなにも楽しみになって両親と色々な話をしていた3週間前が、まるで昨日の出来事のようだ。もうなにも知らなかったあの頃の健気さは根絶えてしまい、いくら充実した中学生活を送れたとしてももう復活はしないだろう。残念なことに。そしてそんな私に向けて(いや、正しくはクラスの生徒に向けてだが)「楽しい中学生活を送ってくれ!」なんて担任は陽気に言った。

正直彼、筧先生が数学の教師だと知って驚いた。一見体育会系だから仕方はないと思うが、やはり人は見かけで判断してはいけないなと悟ったホームルームだった。


「波江、一緒に帰ろう」

「………え、私?」


始業式が終わり、鞄を肩にかけたところで幸村くんが話題をかけた。確かに出会ったばかりでもあれだけ話せば友達という範疇にはいってしまうのだろう。入学したてなこともあり、余計に。だから今会ったばかりだとしても、特別一緒に帰るという言葉を変に思う必要はないのかもしれない。しかし、柳君や真田君のようなレギュラー陣とはまだ友達ではないのか。もし友達なら、一緒に帰らなくても大丈夫なのか。

私の考えを見越したのか、「特に一緒に帰る約束をした友達はいないんだ」と幸村くんは否定を述べた。


「私で、よければ…」

「ほんと?嬉しいよ」


そうして幸村君と一緒に私は校門を出た。彼と一緒にいても大丈夫だろうか、と懸念したがそれは嬉しい杞憂となった。彼といると落ち着くというか、生地をだしてしまうのだ。それはあまりに幸村君が大人びているから、私も蓋が開いてしまうのかもしれない。

花の話や、テニスの話、小学校にいた頃の話など話題は尽きなかったし自然と会話にのめり込むこともできた。ちなみに彼は小学校の頃、テニススクールに一緒に通っていた同年代の柳君と真田君しか友達がいなかったらしい。私だってそれこそ友達は少なかったが、5人はいた。皆公立の中学へ行ってしまったけど。幸村君いわく、友達は薄く多いよりも深く少ない方が割りにあうらしい。その発言じたい、中学生では変わっている。大人だね、と率直な感想を返すと波江もねと冴えない顔して言われた。すごくデジャヴだ。


「俺、波江と同じクラスでよかった。波江の名前を一覧で見たとき、すごく嬉しかったんだ。また会えると思って。まさか隣の席になるとは予想外だったけどね。
同じクラスだと波江しか友達いないし、作る気もないんだ。だから一緒にいようね」


彼はどうやらこれ以上友達を作る気はないらしい。同じテニス部に入る人達とも交流はしないのだろうか。丸井君とか仁王君とか将来のレギュラーとはまだ面識がないようだが、どのようにして仲良くなるのだろうか。

それでも、私しか友達を作らないのは少し癪というかなんというか。まるで私がいるからもう友達はいらないという考え方。それじゃどう考えても私が元凶になってないか。私なんかよりもっと中学生活エンジョイしている人と仲良くなるべきだろうに。

しかし彼はきっとなかなか自分の意思を曲げない人間だ。言っても無駄骨だと察し、小さく頷くとありがとうと微笑した。

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