群集心理 | ナノ




「頼む!この通りだ!」


頭を下げる十数名に頬を引きつらせながら凝視した。場所は教室、時間は昼休み。普通は仲の良い友人と歓談して過ごす休憩時間なはずなのに、なぜ彼ら男子硬式テニス部は頭を下げているんだ。またマネージャーなら申し訳ないが断ろう。


「………」

「…とりあえず何を頼むか説明したほうがいいんじゃないかな?」


もっともな意見をありがとう幸村君。この状況を、幸村君と堀さん以外と関わるところを見たことがないクラスメートたちは少し圧倒されている。なにしろテニス部部長の先輩まで頭を下げられているのだから、私の立ち位置をよく把握できてないのだろう。彼らとどのような邂逅をへてこのようなかたちになったのか、理解しろという方が難しい。それにしても、ここまで頼むなんて一体部活で何があったんだ。


「じ、実はな、その、今学期から部室点検の制度が決まったんだ。部室がちゃんと清潔に扱えてないと一週間部活禁止令をくらうわけなんだ」


教室の真ん中で平謝りする理由を案外あっさり話してはくれたが、それは予想だにしない意外なものだった。

つまり、


「私も掃除を手伝え、と」

「お前しか頼りはいないんだ!本当頼む!」


確かに今朝、集会のときにそんな話を教師はしていた。大層厳しいらしく、シンクがピカピカか、角(すみ)に埃はたまってないか、ドリンクボトルの乾燥棚にカビはわいていないかエトセトラエトセトラ。抜き打ちでチェックするらしく、3つ以上項目に該当した場合の処置が彼らの言う1週間部活禁止令だ。たしかに日頃からこつこつ掃除していなければ週末で何とかするのは極めて難しいだろう。

それにしても皆必死すぎる。あの平松君まで頭下げるだなんて、天地がひっくり返るんじゃないか。マネージャーならばっさり切り捨てるてもりだったのに、ずるい。こんなの、見捨てるなんてできない。もし見捨てたら皆からテニスを奪ったようなものじゃないか。1週間限定で。


「俺からもお願い」

「ゆ、幸村君…」

「1週間も禁止されるのは辛いんだ…」


幸村君にまでこうお願いされてしまうと断りたいにも断れない。幸村君のために…いや、合宿の時のように部員に貢献すると思えば頑張れるかもしれない。


「分かった、任せて」


ここは一肌脱いで、皆の役にたつよう努めよう。私だって長い間一人暮らしをしているんだから、掃除テクニックに磨きをかけている自信はある。

泣きながらガッツポーズをとる部員たちに常に掃除しろよ、と内心突っ込みをいれた。

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