群集心理 | ナノ




マネージャー活動を始めてもちょうど2週間がたった。幸村くんから配布された夏休みの部活予定表に視界をやれば、休日は片手で指折りするくらいしかなかった。しかもそのほとんどがお盆で、3日ほどしかとられてない。基本午前か午後に練習は分かれているが、大会前になるとレギュラーだけオールのときもよく見られる。

まずマネージャーになって驚いたことは、部室に冷蔵庫と調理場があることだ。さすが私立名門校とでも言うべきか。冷蔵庫はドリンク専用として、作った後に綺麗に並べていれてある。しかし調理場はまったく予想外だ。ガスはないが、ボトル専用の食器棚まである。私は公立だったから、私立の素晴らしさに驚愕してばかりだった。

なんて考えを巡らせながら手を忙しなく動かしていると、外が少し騒々しくなったことに気づいた。


「マネージャー!高倉が倒れた!」

「!」


どさっ、と鈍い音がすぐ近くから聞こえ、荒々しく扉が開かれるとともにとんでもな爆弾発言をかまされた。発言をしたのは平松君。平部員でよく高倉君と一緒にダブルスを組む、同じ1年だ。というか、同じクラスの生徒だ。
私は慌てて促されたまま外に出れば、荒い息づかいがすぐそこから聞こえた。視線をずらせば、部室前のベンチに横たわる高倉君がいた。頭に手をやり、絶え絶えに「吐きそう」と呟くことからしてかなり重症なようだ。


「平松君、高倉君を部室に運んで!先に応急処置してから保健室に運ぶから!」

「らじゃっ!」


おそらくだがこれは熱中症の種類の一つ、熱疲労だと思う。もし熱射病なら救急車の出動の依頼までしないといけないけど、体温はそれほど高くないようだから違う、と思う。そこは専門分野である保健の先生に任せよう。
私が今するべきことはまずドリンクだ。予備の冷やしておいたドリンクに塩を加えて平松君に渡し、飲ませるように言う。部室の窓を全て開放し、クッションを高倉君の足元に置いて足部を高くする。末梢から中心部に向かってのマッサージを手際よく行いながら、マネージャーになる前に調べておいてよかったと安堵する。非常事態に備えてパソコンのディスプレイを見つめ、ノートにまとめて記憶していたあの2週間前が懐かしい。5分くらいがたって、高倉君がやっと重い口を開いた。


「あ、すいませんもう大丈夫です」

「大丈夫ってお前、フラフラじゃん!」

「ちょっとした熱中症でしょ?大丈夫だよ」

「その熱中症だからこそ危ないの。高倉君、起き上がるのに精一杯でしょ?」

「そんなこと…っ」

「ほら、無理すんなよ!」

「何かあったら困るから平松君、高倉君を保健室までお願いしていいかな?もし倒れたら私じゃ背負えないし、まだ仕事も…」

「よし任せろ!」


立てそうにない高倉君を背負った平松君は少し歩幅を広げ、早歩きで校舎へ向かった。その一部始終をいつのまに見守っていたのか、幸村君と真田君と柳君が様子を伺いに来た。私は手当てを施しただけだからわからない、と申し訳なく言うと「いや、よくやってくれた」とあの真田君に褒められて思わず頬が緩んでしまった。

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