群集心理 | ナノ




昨日の一件もあったけど、俺は最近どうもおかしかった。波江と一緒にいるだけで安心感が全身を押し寄せてくる、波江と仲の良い人間が会話をするだけで不快感は心を黒く染色しモヤモヤさせる。

堀が波江に泣きつきながら媚びる時だって、波江が平松と楽しそうに話す時だって、最近襲う不愉快感の原因はほとんど波江にあった。俺は最初、これを子どもじみた嫉妬だと思っていた。一緒に居て一番安心できる存在を、他に譲りたくなかった。簡単な具体例をあげれば、また新しく赤子が産まれ忙しくなる母に放置されて嫉妬する子ども。あれと同じ現象だと思っていたが、どうやらそれは違っていたらしい。

これは恋愛的な嫉妬だ。証拠に俺は波江と一緒にいるとドキドキする。それに不二と仲良さげに話していた時は世界が破滅することを知ったような心境に襲われた。不二が邪魔だと思ったんじゃなくて、波江が不二のことを好きかもしれないという考えに至ったからだ。

そもそも考えてみると、これまでそれらしい仕草を全く波江は見せていない。堀の時は女子だから少しの安堵があったのかもしれないし、平松はおちゃらけで絡んでいたことを知っていたからそこまで思うこともなかった。柳や真田達は少し会話を交わす程度で、あいつらがいても尚俺と波江がいる時間の方が長かったから気にしなかったのかもしれない。

あれ、条件だと柳や真田達と何ら変わらない筈なのに、何で俺は不二に対して酷く強い嫉妬をしたんだろう。その答えは少し考えれば自ずと出たが、不二は俺と類似した一面を持っている。主に笑い方や口調なんかそうだ。だから咄嗟に危機感を覚えたのかもしれない。


「…く…、…幸村君?」

「あ、ああ、何だい?」

「もう朝食の時間終わっちゃうよ、コートに向かわないと…」


少し考えに入り浸りすぎたかもしれない。伏し目がちに波江が不二からもらったという写真を見れば、色鮮やかな空と対照的な漆黒を思わせる民家のかたちがあった。薄橙に染まるひつじぐもがノスタルジアを彷彿とさせるそれはやはり綺麗で。

その写真を目に留め、確信した。俺は波江が好きだ。むしろ何で今まで気づかなかったのか不思議なほどだ。

すっと椅子から立ち上がり、波江に謝罪の声をかけて笑った。「そのままの幸村君が一番だよ」と笑う波江がいつも以上に愛しく見えた。

今日この瞬間、つまり恋を自覚した瞬間から、俺の周りの世界ががらりと変わった。

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