群集心理 | ナノ




くっと背筋を伸ばしてケータイの目覚ましをとめる。どうやら朝がきたらしい。昨日は結局、飲みかけのバヤリースを冷蔵庫にしまって深い眠りについてしまった。こうやって吸い込まれるように眠れるということは幸せなことだ。転生前は一時期不眠症な時期もあったからいやほど分かる。寝たいのにまだ課題が終わらない、メンタルが弱っていて眠れない。こんなことなんて本当に、ざらにある。


「やあ、佐々木さん」

「不二君と…えー…菊丸君?」

「ポンピーン!」

「英二の名前は知ってたんだね」

「?全員覚えてるよ」


英二の名前"は"と、やたら"は"を強調したように聞こえた。でも私は先輩含め全員の名前を覚えている。不二君だけ覚えてないわけでもないしそういう言動はしてないはずだ。疑問符を頭に浮かべると不二は小さく笑い、冗談だよと言った。


「朝早いね」

「ここは眺めもいいからね。写真を撮ろうとしてたんだ」

「聞いてよー!不二ったらすっげー酷いの!俺がきもちよく寝てたら耳元でケータイのアラームを大音量で流されてまだ耳が痛いんだにゃ!」

「英二が呼んでも起きなかったからだよ」

「へ、へえ…」


どうやら転成前とは違い、不二君はちょっぴり毒を孕んだイケメンらしい。爽快な笑顔と口から出る言葉のミスマッチさに苦笑を浮かべる。私としては、毒舌は嫌いじゃない。むしろ不二君の場合は漫画のキャラという固定観念もあるせいか、少し意外性に富んでいただけだ。人間性が感じられて微笑ましくもある。


「何を撮るの?」

「"何を"、か。そう言われると当てはまる言葉が出てこないな」

「?」

「ビビッとくるんだ」


きっともう感覚的な問題なんだろう。私は写真なんて思い出ついでにしか撮らないし、気を配ることといえば逆光くらいだ。本当に写真を撮ることを趣味にもつ人の感性は、きっと分からないだろう。


「この前撮った風景の写真でよければ余りもあるけどどうかな」

「余りがあるなら一枚欲しいな」

「なら朝食の時にでも渡すよ」


不二君の好意に礼を返し、私は部室へ向かうべく彼らと別れた。

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