ケータイのアラームによって私は起こされた。ケータイを開いて確認すると早朝の4時、ばっちりだ。そして着信履歴に幸村君の文字があった。どうやら昨晩私が寝てからかけてきたらしい。今から電話なんてできないし、また朝にでも会って謝ろう。頭も体も鉛のように重たいが、なんとか起き上がりベッドから抜け出した。
着替え、歯ブラシ、洗顔、しおりにて今日の予定の確認。大体の作業を終えて部屋を発つと、ちょうど真田君と扉を開けるタイミングが重なったようだ。相変わらずの黒い帽子は祖父から貰ったものだと、バスの中で言っていた気がする。
「真田君おはよう」
「む、佐々木か。早いな」
「先に支度をしておこうと思って」
「さすがだな。部員のためを思っての率先した行動や効率よく仕事を進める様といい、見事な逸材だ。また気が変わったらマネージャーを引き受けてくれると助かる」
「あ、ありがとう…さ、真田君は、自主練?」
「ああ。朝から体を動かし脳を働かせないとどうも本調子が出ん」
「そっか。練習熱心なんだね真田君」
「当たり前だ。3連覇の永劫を果たすと誓ったからな。努力するのみだ」
「そっか。影ながら応援してるよ、頑張って」
相変わらず堅苦しい真田君を中学生だと私は認めない。堅苦しいって言ってもそれは一見で、実際に話してみると結構熱い男だ。練習に励み努力を怠らない様はいつ見ても感心する。…まあ皆言ってしまえばそうなるのだけれど。
そう言えば真田君の必殺技は確か風林火山だ。武田信玄が軍旗に記した言葉である。
「その疾(はや)きこと風の如く、その徐(しず)かなること林の如く、侵掠(しんりゃく)すること火の如く、動かざること山の如く」
この言葉が起源であり、風と林と火と山を抜き出してこの言葉ができたらしい。物事に対処する場合の極意を表していて、真田君によく合ったネーミングだとも思う。
私は真っ先に部室へ向かい、ドリンクを作る作業にはいった。