群集心理 | ナノ




「佐々木波江はいるか」

「…私ですが、」

「少し話がある。放課後屋上へ来てくれないか」


そんな会話があっての今である。そもそもなぜ立ち入り禁止の屋上なのか。何か第三者に知られてはいけない密会なのだろうか。そしてなぜ施錠されてないのか。掃除で少し遅れてしまったが、相手は怒っているだろうか。一言では表せないほど頭の中は混沌としていて、落ち着きをみせるので精一杯だった。

相変わらず紙面で見た通りの開かれない目は、決して自分の心情を悟らせないかのようだ。あんなのが中学生なんだから、どうかしてる。転生したせいか大分大人びた性格になった私でも言うんだ、保証はある。


「柳くん、どうしたの?」

「なんだ、名前知っていたのか」

「幸村くんから聞いたよ。テニス部、遅れない方がいいんじゃないかな」

「ああ。なら単刀直入に言わせてもらう」


「次の期末テスト、賭けないか?」


今私は、すっとんきょうな顔をしているだろう。柳君に呼ばれたことじたい驚愕しているというのに、それに積み重ねるかのようにまた大きな驚きと疑問を乗せられたようだ。


「何を?」

「もし俺が勝てば、佐々木をマネージャーに推薦する。負けたら、マネージャーは諦める」

「マネージャー?」


なぜ1年の柳くんがマネージャーにこだわるのか。賭けにするほどの問題があったのか。事情を知らなければいけない立場である私は、情報を要求せざるをえない。


「あるメンバーで下剋上を起こそうと思っている」

「そのメンバーは?」

「知らない者が多いだろう。だがその中には幸村も入っている」

「なぜ下剋上を?」

「あまりにレベルが低くてな。まだボールに触らせてもらってない俺たちの方が間違いなくレギュラーの先輩たちより強い。本来ならマネージャーがするような仕事もすべて1年である俺たちの仕事になっているが、明らかに効率が悪い」


分からない気もしない。今の立海のテニス部レギュラー陣は生意気で理不尽な先輩(主に3年)が多いと聞いた。あくまで噂だが。しかしその噂が本当であるなら確かに、年の差だけで上下関係が成り立ってしまうのは苦痛だ。そんな江戸時代のような権力行使があってたまるか。今は平成なんだから。しかしレベルが低いのは本当だろうか。ああ、柳君から見たらの話なら納得もつく。
期末テストと確か柳くんは言っていた。恐らく今回、彼は2位で、首位を私がとったことも知っての賭けだろう。そしてその情報源も幸村君だろう。


「下剋上とマネージャーにどんな関係が?」

「もし話が通れば、俺たちのかわりが必要だ」

「…わかった。でもなぜ私が?私以外にもっと適任者がいると思うよ」

「…幸村が推薦したから、というのもある。だが俺からすれば幸村が気に入っている女子は佐々木だけだからな。データがほしい」

「…さ、さいですか」

「ああ。本人が知らない、その人物の一面というものもある。マネージャーになれば会う機会も増えるからな。言動を観察しながらデータをとりたい」


幸村君がか。確かに幸村君は柳君と真田君以外だと私しか友人はいないと言っていた。それにしても幸村君、なんで私を推薦したんだ。極力面倒事には首を突っ込みたくないのに。私が全体的に少ない帰宅部に所属しているからだろうか。柳君も柳君だ。私はテニスをするわけでもなければ特別詳しいわけでもない。テニス以外でなぜデータをとる必要があるのか謎で仕方ない。しかしこうも頼まれては断れない。幸村君の推薦だと言われてしまっては余計にだ。結局私は渋々了承し、家へ帰るべく踵を返した。

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