群集心理 | ナノ




次の日の朝、私は4時半に起きた。次の日とは勿論下剋上の翌日ということだ。昨晩幸村くんから早速メールがきて、時間や持参する物まで詳しく書かれていた。マネージャーとしての活動内容は今日説明するらしい。7時に始まるからそれまでに、とのことだ。

しかし、何事も気遣いとやりがいが大切だ。特に気遣いについては、社会に出れば嫌でもわかる。洗顔して髪の毛を丁寧に調え、荷物を確認してから5時半に家を出た。ちなみに朝食はいつもお弁当のあまりを口に加えている。


「あれ、波江」

「幸村くん、おはよう」


学校に着いたのが6時をちょうどすぎた頃。夏休みなこともあり制服ではなくジャージで来ていたので、早速ドリンクを作り始める。これでも転生前はテニス部に入部していたので、粗方の試合形式やルールなどは知っている。ポカリも粉で溶かしたものを持参していたので水と粉の黄金比も知っている。

ポカリを人数分作り終えたのが40分。名簿には3年生のレギュラー陣の名前がどこにも存在せず、案の定大会を前にしてやめたらしい。約束は約束だけどせめて最後の大会くらい出ればいいのに、と思う。しかしおかげでドリンクを早く作り終えることができたのでよしとする。そしてちょうどその頃に幸村くんが部室の扉を開けた。なんだかいざ考えてみると、私だけ勝手に気合いいれて、頼まれてもないのにポカリを作ったみたいで恥ずかしい。ドン引きされたらどうしよう、心が折れそうだ。


「…もしかして、用意してくれてたの?」

「あ、うん。ごめんね、説明聞くより先にしちゃって…でもドリンクくらいなら作り方も知ってたから…」

「ありがとう。やっぱり波江をマネにして正解だったよ」


よ、よかった…!ドン引きされなくて本当によかった。最近の中学生はよく分からないからなあ…あ、この人たちを最近の中学生と思うことがまずピント外れだったわけか。考えてみれば彼らはテニスに生き甲斐を感じ全国大会優勝を目指す一人のプレーヤー。マネージャーがしっかりしていれば練習もはかどるし、そんな人材を求めているのではなかろうか。


「まさかここまでとは…佐々木がマネージャーを要領よくこなす確率は73%だったが…これは想像以上だ。データを修正する必要があるな」

「うむ、初日からいち早く部室に向かい、部活動の準備に励むことは立派なことだ」

「お前さん頑張るのぅ。わしは仁王じゃき、よろしく頼むナリ」

「すげー、ボールの個数確認までしたのかよぃ…マネージャー雇ってよかったじゃん!」


皆の一言が胸を熱くさせる。うわ、なに感動してるんだ私。相手は中学生、私は脳内成人だぞ。ちょっと中学生に褒められただけで胸がむず痒くなるなんて。落ち着きを取り戻すんだ。


「ありがとう」

「いや、ありがとうは俺たちの台詞だよ。本当に助かるよ、ありがとう」


うわあ、幸村くんそれはだめだよ。ああ、未来のレギュラー陣以外の人からも尊敬の念やお礼を言われ、少し紅潮した。中学生ってこんなにいい人たちばかりだっけ、なんて誤算に頭を唸らせつつ、1ヶ月間のマネージャー生活を全力で頑張り尽くそうと決意するのだった。

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