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映画
「八重ちゃん!一緒に映画見に行こう!」
堀さんは登校するやいなや私の元へとすごい勢いでやってきた。いや、映画見に行こうって、急にどうしたんだ。見たい映画でもあるんだろうか。実は闇金ウ
ジマ君です、とか言われたら私堀さんへの印象がだいぶ変わるなあ。それにしても堀さんってどんな映画が見たいんだろう。
「ポケ
ンが見たいの!」
「(うそーん…)」
「何、まだそんな子ども染みた映画見てるわけ?」
「ゆっ、幸村君!」
いや私達まだ中学生だしポケ
ンが見たいって時期なのかもしれない。でもごめん堀さん、私あまり見たいと思わない。まだ闇金ウ
ジマ君の方がいい。
私はただただ呆然としていた。しかしそんな間も幸村君と堀さんの口論は続くわけで。本当、いつになったらこの二人くっつくのかな。しかしこれもあれだ、ツンデレでいうツンだ。幸村君のデレとか考えただけでドキドキしてしまう。美男子恐るべし。
「で、でも私八重ちゃんと一緒に行きたい!」
「八重はポケ
ン見るより俺と美術館行く方が絶対楽しめるだろうね」
「そっ、そそそんなことないもん!」
「(ごめんそんなことあるんだ堀さん)」
私が堀さんから目を反らし、俯いていると堀さんは照れてるんだと勘違いしたらしい。堀さんの鈍感さには本当に敵わない。ほら喜んでる!と顔を赤く染めて喜ぶ堀さんはすごく嬉しそうだった。
「は?堀の目は飾り?それとも節穴かい?嫌がって目を反らしてるだけだよ」
「!」
目尻にはあっという間に涙が溜まり、とうとう堀さんはぼろぼろと泣き出してしまった。一番危惧していたややしき事態だ。泣いてまで私と一緒に行きたいのか堀さん。そしてなぜ幸村君と行く方向に話が発展しないんだ。
「私はただ八重ちゃんと一緒に行きたいだけなのにっ、なんでいつも幸村君は私から八重ちゃんをとろうとするのぉっ!」
「(いや俺もただ八重と行きたいだけだし)」
それは愛情の裏返しなんだよ!なんて言えるわけがない。とりあえず朝っぱらから教室で泣かれるのは困る。平松君が爆笑してるのが気にくわないけど、先に堀さんを何とかしないと。
「一緒に行こっか、ポケ
ン」
「ほっ、ほんどに?」
「うん、だから泣き止んで」
でもなんだかんだ言って堀さんはやっぱり可愛い。目を赤く腫らしながら笑顔で抱き着く堀さんは私には勿体ないくらいだ。親離れにはまだ早すぎるのかもしれない。
「…ねえ、平松。お前はへらへらと何を書いてるんだい?」
「(げえっ!幸村…っ)」
「今日の部活で覚えとけよ」
私たちからだいぶ離れた窓際の席で、そんな二人の会話が交わされたなど知らず映画の話をした。平松君のことを憐れみと呆れの目で見る高倉君は「ある意味三人とも皆鈍いよ」と心底思ったのだった。
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