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犬猿

「幸村君、私トイレ行ってくるね」



ふわりと笑う八重に俺も微笑み返し、いってらっしゃいと告げた。彼女は限度をあまり把握できてない一面がある。勿論炎天下の中タオルを干しに行ったり数十人ものドリンクを作ったりと重労働を完璧にこなしている。そのことに関しては嬉しい反面、全く休憩を挟まないからすごく心配になる。正直、彼女に一番水分補給をとってほしいくらいだ。この間の高倉みたいに熱中症になってはほしくないからね。

八重の後ろ姿を見送り、空いたドリンクボトルをキャスター付きのかごに入れる。冷えタオルまで作るとはまさか考えもしなかったので実は驚愕している。きっと熱中症対策だろう、この前蓮二がそう言ってたから間違いない。俺たちのために真剣に配慮してくれるのは嬉しいけれど、いつか俺だけのためにその配慮を向けてほしいなんて思うこともある。俺って実は独占欲が結構強いのかもしれない。冷えタオルを両手で包みこみ、一人考えに浸っていると後ろから俺の名字を呼ぶ声が聞こえた。



「………不二」

「クス…今朝はすまなかったね。怒ってるかい?」

「ふふ、何のことかな?」



今朝…写真を八重に渡した時のことを言っているんだろう。不二のことについて蓮二に聞くと案の定、侮れない相手だと口にしていた。他人の小さな変化にも敏感に察知できるところまで俺と似ているなんて、あまり良い気分でもない。



「七宮さんのこと、好きなんだね」

「へえ、不二はどうしてそう思ったんだい?」

「…何となく、そうなんだろうなってさ。直感っていうのかな?不明確かもしれないけど、本当だよ」

「……そう」



俺は冷えタオルをかごに戻し、不二の居る後方へと向き直った。にっこりと貼り付けたような笑みの下には一体どんな素顔が隠されているんだろう。こんな得体の知れない奴より絶対俺の方がいい。



「不二は八重のこと、好きかい?」

「クス…さあ、どうだろう」

「随分曖昧な返答だね。これは期待してもいいのかな?」

「………期待、ねえ」



この際、隠す必要もないだろう。むしろここは先手を打った方がいい。不二は目を薄く開いて俺を見、「期待か」と小さく呟いた。



「今はまだそこまで発展してないから心配しないで」

「ふふ、どうだか」

「……でも」



両目を閉じ、不二はいつもの笑みを再び浮かべた。



「似た者同士、同じ女性を好きになるかもしれないね」



じゃあまた、と不二が去った数分後に八重は戻ってきた。どうしたのと首を傾げる彼女に胸が高揚する。堀同様、不二も脳内ブラックリストの一員に見事選ばれたのは言うまでもない。


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