キラキラ・ザ・ワールド
午後4時55分。ロバートさんはすこし口惜しそうに「もう閉店時間ですね」と耳を垂れた。こういう些細な動作が猫らしいけど、口調や接待は人間らしい。本当に不思議な猫だ。閉店5分前に気づいた周囲に群がる猫達も、ちりぢりに各方向に設置してある猫用の扉から去り始めた。また来月来るぜとジャッカル君が微笑して言ったので、私も便乗して店を出た。
「ジャッカル君、一つ聞いてもいい?」 「どうかしたのか?」 「いや……どうしてロバートさんに、これからこの喫茶店に通うなんて言ったんだろって」 「わ、悪い!もしかしたら嫌だったか……?」 「嫌じゃないけどその時さ、ロバートさんがもしかしたら、猫の皮を被った死神だと思ったから……」
そうつらつらと、その時の心境を語った。目を点にして話を聞くジャッカル君は、私がいつか死を宣告されるかもしれない!と言うと笑いだした。な、なんて失礼な……、十数分前まで真剣に考えていたというのに。そう軽く睨むとジャッカル君はその視線に気づき、苦笑しながら謝罪を述べた。
「ロバートさんは悪いやつじゃない気がするし、死神でもねーだろ」 「どうして?」 「死神があんなに暖かいミルクを出してもてなせるわけがない」
その言葉にはなんの根拠もないはずなのに、私は妙に納得してしまった。そもそも死神が喫茶店に佇むなんてアブノーマルな場景だ。振り返って喫茶店を見ると、いつの間にかCLOSEと書かれた看板が扉にかけてあった。扉を開ける音も聞こえなかったのに一体いつ差し替えたのだろう。 不思議な現象の連続に、呆然と喫茶店を見てると、右のふくらはぎにマロンの前足が触れていた。ジャッカル君はこいつがマロンか?としゃがんで頭を撫でる。
「八重、帰ろう」
そう発したのは勿論ジャッカル君ではない。やけにマロンの鳴き声と似た声だった。私たちの疑問に気づいたのか、「なに突っ立ってるの、置いてくわよ」とマロンが吠えた。そう、マロンがだ。私とジャッカル君が驚きの声をあげるのはそう遅くなかった。ロバートさんからもらったキャットマークが原因なのだと二人が気づくのは、声をあげとからすぐのことである。
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