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食卓の流れ星

「紹介が遅れました、私は店主のロバートと申します」


どうぞお熱いうちに、とホットミルクを更に進められ、私はロバートさんの顔色を伺いながら少し口にした。舌先に熱さを感じる味覚芽があるから、舌を丸めて飲みなさい。そう小さい頃から口を酸っぱくして教えられたので、ある程度の熱さに耐える順応性はある。カップを元に戻し再度ロバートさんを見ると、つぶらな黒い瞳に私とジャッカル君の顔が映っていた。未だに私たちから視線をそらさない猫たちを気にしてしまい、緊張感はうなぎ登りだ。


「どのようにしてこちらに?」
「あ、開いてたから」
「おや、開いてましたか。そうですか……」
「それより、ここは一体何の店なんだ?」


そう!それすごく聞きたかった!ジャッカル君の話題に感謝しながら、私は目の前に佇むロバートさんを見た。月に一度しか開かれない、猫達の集い場。ただの喫茶店ではないだろう。それにしても猫が喋るという不可思議な現場に遭遇しながらここまで冷静な私に自分で一番驚いている。
ロバートさんは依然として私達から視線をそらすことなく、口を少し開けた。しかしそこから言葉が紡がれることはなく、私とジャッカル君はいたたまれない気持ちを抱えた。


「ここはしがない喫茶店でございます」
「“客”は多いんだな」
「……いえ、彼らはお客様ではございません」
「、は?」


客じゃないというのはどういうことだ。ロバートさんは、私とジャッカル君を客として迎え入れた。つまり喫茶店は運営しているということだ。ジャッカル君も同じことを考えていたんだろう。ジャッカル君は、じゃああの猫は一体何なんだ?と私の気持ちを代弁したかのように尋ねてくれた。それに対してロバートさんは、泰然自若とした態度で私達から猫へと視線を動かした。


「彼らは、私の可愛い可愛い、子どもにございます」
「え、子どもってどういう、」
「それにしても、お客様が来るのは何年ぶりでしょう。私としても、大変嬉しいことです」


ロバートさんが言うお客様って、人間のことだろうか。昔は沢山の子どもが遊びに来てくれたんですがね、とロバートさんは悲しそうに瞼を伏せた。こんな古びた喫茶店に遊びに来る子どもが多数いることの方が今では驚きだ。最近はゲームやテレビが普及したこともあり、お客様はめっきり顔を見せないようになりました。そうロバートさんはため息をついた。


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