ようこそ偶然
しまった寝過ごした!そうコタツから飛び起きて壁にかかっている時計を確認すると、もうおやつの時間だった。さ、3時間も寝てただと…。顔面蒼白になりながらマロンの姿を探すも、やはり見当たらない。こんなときはくよくよ悔やんでいても仕方ない。外に探しに行こう!聞き込み捜査だ!そうポジティブに現状をとらえ、私はダウンを羽織り外へ出た。
とりあえず近隣から探そう。辺りを見回しながら近所の公園の滑り台の上まで確認しながら歩く。もし遠いところに行ってたらどうしよう……。マロンが失踪するのは1時から5時までの4時間。その可能性も十分ありえる。でももしそれが本当だとすると、ますますマロンの行動に疑問が生じる。遠くに行ってまで何をするんだろう。ま、まさか……恋!?遠距離恋愛とか?相手のオス猫が忙しくて、会えるのが毎月5日のこの時間帯だけだったりして。なんて人間味のある猫なのマロンったら……!
一人で勝手に想像し花まで咲かせていると、前方から人を発見。買い物帰りのおばさんらしい、エコバッグを使っているところになんとなく愛着がわく。50代後半から60代前半のグランマ予備軍とみた。
「あの、私の猫見てませんか?茶色くて、今年で8歳になるんですけど…」 「ごめんなさい、見てないわねえ……」 「そうですか……」 「あなたの猫も見当たらないの?」 「はい……え、あなたの猫"も"?」 「ええ。うちも3匹飼ってるんだけど……毎月5日のこの時間帯になると必ず行方不明になるのよ」
あれ、マロンだけじゃない…?彼女はパソコン教室の帰りだったらしい。家に帰っても5時くらいまで3匹共に姿が見えず、いつの間にか5時をすぎると居間にいるのだとか。最初は心配していたが、今では慣れてしまったわと彼女は苦笑を漏らした。あなたもあまり気にしない方がいいわよ、あちこち探しても一向に見つからないもの。そう告げて背中を向けた彼女を、私は呆然と見守ることしかできなかった。 っていやいや、こんな所でぼけっと突っ立ってるわけにはいかない。マロンの居場所を探さないと。再び歩みを進めると、また前方から人影があった。黒人でハゲのイケメン。……な、なんかアレだね、ハゲなのにイケメンってビジュアル的に面白すぎるよね。けれど顔のパーツは空気を読まず、絶妙な位置に留まっている。まあノーヘアーのイケメンなんて外国の俳優さんにも結構いるし、本当はそこまで気にすることでもないのだろう。
「あの、すいません、私が飼ってる猫見てませんか?」 「猫?見てないな」 「そうですか……茶色くて、銀色の鈴のついた首輪してたんですけど…」 「銀色の鈴……?」 「はい」 「そういや猫は見てねーけど、その銀の鈴が落ちてるのは見たぜ」 「本当!?」
確かに鈴はゆるく結んでいたし、歩く道中でとれてしまったんだろう。まさか鈴がこんな所で助け船を出すとは思わなかった。お母さんグッジョブ!これはマロンを見つける大きな一歩になるかもしれない。私はこの黒人さんに銀の鈴が落ちていた場所まで案内してもらうことにした。
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