太陽の暮らす部屋
12月5日、正午。昼食であるお好み焼きを頬張りながらマロンの様子を伺う。が、変化なし。まあ失踪時間の1時間前だもんね。のんびり口を動かしながら、コタツの中で丸くなるマロンを覗き見る。人工太陽の下で気持ち良さそうに眠るところを見ていると、今日本当に失踪するのか不安になってきた。
「八重、あんたまた今日も予定ないの?」 「いや、今日はマロンを調査するから」 「あら、そう」 「あれ、すごくどうでもよさそう」
マロンも家族同等、失踪して何してるのか気にならないの?!と食い付いてみれば、問題起こしてないみたいだから気にしてないとバッサリ切り捨てられた。まあマロンも猫だしたまには気ままに外に出るんじゃないの。そんなことをあっけらかんと言う母と、私は本当に血が繋がっているのか心底疑った。もしかしたら某国民アニメのオープニングみたいに、お魚くわえてるかもしれないのに!あ、マロンはそういや好んで自分から魚は食べないな…。そうでなくとも、他所で迷惑をかけているかもしれないのに。迷惑をかけてない保障なんてどこにもないのに!まあ、私はそれを気にして見張るわけじゃないんだけどね。ただの好奇心なんだけどね。
「ああ、そうそう」 「ん?」 「私この前神社で銀色の鈴を買ったのよ、マロンにつけようと思って」 「へーなんでまた」 「なんとなく」
お母さんはそう言って、お気に入りのシャネルのバッグから銀色の鈴を取り出した。ちなみにあのバッグはデパ地下バーゲンセール中に買った8千円のもの。私は断じて本物のシャネルだと認めない。 赤い紐が通ったそこら辺に売ってそうな鈴を、どうしてまた買ったものか。そこら辺をもっとケチれば今以上に裕福な家庭を築けるだろうに。床に手をついてコタツの中に入り、下半身のみを露にするマイマザー。きっと寝ているマロンの首輪に鈴をつけるという作業を行っているのだろう。しかしコタツから尻だけ突出しているこの図は、めちゃくちゃおもしろいし品性の欠片もない。相変わらず思考や言動が大阪のオバチャンを連想させる。自称ピチピチのアラフォーが家ではこれである。そしてそれをのんびり見ながらお好み焼きを食べ終わる私もなかなか鍛えられたものだ。
「よし、完了」 「ちなみにさ、銀色の鈴には何か効力でもあるの?神社で買ったんでしょ?」 「さあ、分かんない」 「え?」 「ん?」
軽く結びつけたから、すぐにとれちゃうかも…。そう呟きながらお母さんは台所へ戻った。いや、ちゃんと結び直したらいいのに。そうぼんやり考えていると、眠気が洪水のように襲いかかってきた。食後だからアセチルコリンが働きだしたころか、いつもお勤めご苦労様です。私はなんとか耐えようと目をこすったりもしたが、やがては意識すらもうろうとして、寝転がり眠りについてしまった。
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