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扉を開ければ、また

「八重ちゃん、学校は楽しい?」


そうマリアが尋ねた。私にとってマリアは本当に聖母のような存在だ。確かにリクや星みたいな男性に対してはえげつない仕打ちを笑って行えるような怖い人だけど。綺麗に整えられた容姿や優しい口調は聖母マリアを物語るには十分なものだった。


「あんまり、かな」

「まさか、いじめられてないだろ?」

「うん。ただここでの生活が幸せすぎて学校が付属品のように感じてしまうの」


私は学校では何の偏屈もない普通の女子だと認識されているだろう。真面目で目立った言動もなければ友人と穏やかに毎日を過ごすだけ。それがあまりにも退屈だと最近思うようになった。相撲大会開催したり、フリーマーケットしたり、日常がおかしすぎて少し基準がおかしくなったのかもしれない。


「リクの授業の方が断然分かりやすいしね」


と、ここまでが昨日の夕方の話である。つまらないつまらない世界史の授業をぼんやりと聞き流しながら窓に目をやると、近くの3階建てのビルの屋上から銃を構えるシスターの姿を目撃してしまった。大方私のことを心配してマリアが派遣したんだろう。少しずれた愛情だけれど、そんな皆が好きだ。私はホームレスになってよかったと心から思う。小さく手を降るとシスターは敬礼をしてまた銃を構え直した。


「……七宮」

「?柳君、どうしたの」


隣席である柳君が珍しいことに、授業中にも関わらず小声で声をかけてきた。周りにもも喋っている生徒はいるから目立った行為にはならないが、相手が柳君だから珍しい。


「あれは何か知っているのか…?」


そう目線の先にあるのはやっぱりシスターの姿で、気づいてたんだと苦笑した。端から見ればただの変質者や不審者に分類されるんだろうなと思うと、おかしくてたまらない。客観的にみる景色と私たち橋の下に住む人からみる景色は、こんなにも違う。


「ふふっ、私の親友だよ」


学校ではあまり笑みを見せないが、ここではつい橋の下にいる時のように自然に笑ってしまった。彼らを見るだけで、頬の筋肉が弛緩する。神様はどうやら私に素敵な邂逅を与えてくれたようだ。
柳くんは目を見開いて私を凝視する中、机の中のケータイが小さく震えた。リクからで、特別に今から屋上で講習を開いてくれるそうだ。どうやって屋上に言ったかは不明だが、リクのことだ。保護者という名目で勝手に忍び込んだ…いや忍び込まされたのだろう。マリアの命令によって。いつでも見学自由なために開かれた門を通過するのは容易いことだ。


「先生、お腹痛いので保健室に行ってきます」


まず円があるとする。円は自分の想いを打ち明けられない内気さがボーダーになっている。学校にいるときの私ではこの円をでるための扉のドアノブを回せないだろうし、むしろその場に佇んでしまうだろう。しかし橋の下の住人が絡むと私は足取り軽く扉を開けることができる。


「さーて、勉強頑張ろう」


私はふわりと微笑んで、屋上の扉を開けた。


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