「お風呂、入りに行こう」 「風呂?!温泉でもあったっけ?」 「いや、近くに銭湯があるんだよ。久しぶりに入りに行くかい」 「うん!」 てなわけで今は風呂の用意を部屋でしてる。つっても、下着とスウェットを用意するだけだからすぐに終わってしまった。シャンプーとかはばあさんがしてくれるらしい。でもさすがに俺だって、歳いったばあさん一人で自分の用意をさせるのは胸が傷む。何か自分にできることがあるか聞かないと気がすまない。部屋を出て、リビングへと向かった。 「ばあさん、なんか手伝うよ」 「ああ、もうできたよ」 「早っ!」 ソファに座ってテレビを見てるばあさん。その足元には俺の分であろう袋があった。中にスウェットと下着を詰めこみ一息ついてソファに座ると、空気がぴしりと変わった。 幸村部長のときと似た、誰もを緊張させる絶対的な圧力が空気の中にどんよりとのしかかる。 「最初、琴音のことを蔑んでいただろう」 「!」 「あの子はそこらの女とは全然違うよ」 「すい、ません。でも…っ!」 「でも?」 「今は違う、んです。最初は琴音をっつーか、女を卑下してました。琴音も俺の本性を見ればビビって逃げ出す女の一人だと思ってたんす。でも…」 「そうかい。もういいさ」 「…え?」 その時のばあさんの顔は、すごく穏やかだった。例えは洒落にならないし失礼だけど、ポックリ死ぬ5秒前みたいな顔をしてた。安心してすべてに身を任せるような淡い笑顔。 「琴音を、よろしく頼んだよ」 「………は?」 「これだけ生きてりゃ分かるのさ。大事な孫がもうすぐいなくなることくらい」 「いなく、なる?」 「なんとなくだけど、直感めいたものがビビっとくるんだよ」 「な、何わけわかんねーこと…」 「歳をとれば自ずと分かるようになる。そろそろおばあちゃんから離れて一人立ちしなきゃいけん時期だから、お願いしてもいいかい?」 一筋、頬をつたい顎まで流れるリキッドを見せたばあさんは綺麗な目をしてた。コバルトブルーの瞳、ほどよい潤いは光に反射して綺麗な屈折を描く。 なぜかわからない。無意識だった。俺はゆっくりと、それでいてはっきりと、気づけば口に出していた。 「わかりました」 |