Mr.Traveling Man | ナノ




「じゃあまずは素振りから」
「はい!」
「ボールがあると思って打ち返すようにする」
「はい!」
「ラケットをこうやって下からわし掴むように握って」
「はい!」
「ボールがラケットの面の大体真ん中あたりにきたかなってときに振り下ろす!」
「はい!」
「(……本当にわかってんのか?)」


わし掴むように握ラケットを握り、素振りのフォームを教えてもらう。サーブ、フォア、バック。全てくまなく教えてもらい、自分でちゃんと習得するようにラケットを振る。バランスが悪かったりラケットの角度がおかしければ切原くんがちゃんと指摘してくれる。


「素振りはそんなもんで大丈夫だろ」
「!、次は何するの?」
「まずは…ま、サーブやってみっか」
「は、はい!」


さ、サーブってあの四角い枠の中に入れないといけないんだよね…。素振りでフォームはわかったけれど、力加減はまだわからないし。最初のうちは積み重ねってことか!真上にボールを上げる練習もしたしいざ、ゆかん!


「あちゃー、やっぱり入らなかったや」
「いや、今のすごくよかった!練習重ねたらすぐにマスターできるぜ!」
「ほほほ本当!?」
「いやマジでマジで!」
「よっしゃあまだまだがんばるぞー!」


スポーツをする楽しさというものに、初めてふれたかもしれない。ただしんどいだけなのになぜ運動部にみんな入部するのか、以前は全くわからなかった。部員と、顧問と、他校の選手と触れて触発されて。沢山の繋がりや絆を築くことができるからかな。なんとなくだけど、わかるようになった気がする。もしかしたら私、赤也君といることで何か大切なことを教わっているんだ。


――――――――


数十回は繰り返した。適当に打てば入るものだと、入って当たり前のものだとすっかり思い込んでた。違う。もとから私が運動オンチなせいもあるだろうけど、全然難しかった。力加減、打つタイミング、向き。少しでも力んでいたらネットを越さない。タイミングがずれると空振り。向きが違えば枠中に収まらない。ミスしてばかりだった。

赤也君は怒る様子もなく、真剣に見てくれている。打てるようになりたい。ボールを真上に上げて、ラケットを降り下ろした。ボールは誘導されたかのように、枠の右端でバウンドした。


「…あ」
「は、入った」
「うっしゃあ!」
「あ、ありがとう赤也君!は、入ったよ、赤也君のおかげで!」
「頑張ったじゃん」
「うん。あの、今日はもう帰らないといけない時間だけどさ、」
「?」
「明日もまたテニス教えてほしいな」
「!」
「テニス、もっとしたい」


赤也君は笑って「勿論」と答えてくれた。今まで様々なスポーツをしてきたけど、これだけ真剣になれたものはなかった。相手の心配ばかりで集中できなかったバスケとバレーボール。迷惑ばかりを考えて、いつからか自主的にスポーツをしようとは思わなくなった。けれどそんな自分を、テニスでなら変えれるかもしれない。

おばあちゃんには明日も学校休むこと、何て言おう。そう悩みながら二人で帰路についた。

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -