Mr.Traveling Man | ナノ




「おばあちゃん、赤也君ね、テニス本当に強いんだよ!すごいの!」


そういえば、誰かに誉められること自体久し振りな気がする。高校生に進級してからは、俺のことを知らない先輩なんていなかったから、できて当たり前だと言われ続けた。それが癪にさわることもなかったし、自身もそう思っていた。先輩が知ってたのは中2の頃からエースとして全国大会に出場していたからだと思う。親からも、表彰をもらえば「あら、またもらったの」と特別驚くことはない。それについても当たり前だと思って特に何も言わなかった。当たり前。できて当たり前。もしかして俺にはいつの間にか変な固定観念が定着していたのかもしれない。
面と向かって、まるで自分のことのように喜んで、興奮して、一生懸命に思いを伝えようとしているこの女はなんなんだ。実際、テニスで思いっきりデビル化したんだ、なんで怖がってないんだよ?お前と深く関わる前に縁をきっておこうと思ってしたんだ。しかも深く関わったらめんどくさくなるからとか思って出た行動なのに。
なんで簡単にそんなこと言うんだよ。慣れない言葉の洪水に、顔が火を吹くように熱い。


こうして家に帰ってもまだ言葉の波はおさまる気配をみせない。ここまでくるとさすがにすごく恥ずかしい。でも嫌じゃない。誉められることって、こんなだったっけ。むず痒いけどその数倍、嬉しい。試合の流れを詳しく話すこの女とそれを興味深そうに聞くばあちゃん。なんかここまできたら俺が最低なやつみたいじゃん…自ら嫌われようとしたし。けど、なんで怖がってないんだ?正直、デビル化した俺を見れば女なら怖がって普通だと思ってた。だから女が嫌いだったんだけど、この女はなぜ、何もなかったかのように話せるんだ?思い悩んでいてもきりがない、そう悟り口を開いた。


「え?だってあれは若いからでしょ?」
「あんたらくらい若けりゃなんでもできるんじゃよ」
「ね」


何がね、なのか。若いからって、曖昧すぎるだろ!え、俺のデビル化を年齢で片付けたのか?!そんな女今までいなかった…いや、もしかしたらこの女をそこら辺の女と一緒にしてる時点で間違えてたのかもしれない。今までごちゃごちゃとあーだこーだ考えてた自分がバカみたいだ。もうやめやめ!

ついつい吹き出す俺を見て優しく微笑むばあちゃんがいた。この人には全て見透かされてたのだろうか。幸村ブチョーを思い出す。この日から俺は、この女から琴音と呼び方を変えた。

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