「私仕度するからおばあちゃんと……えっと」 「………切原っす」 「切原くんは座ってて!」 そう言うと女はキッチンへと走って行った。一言で今の心境を話せば、呆気。起きたら見慣れない木造の天井が目に入るし、ここどこだ。そしてあの女。名前は確か佐伯琴音といったか、どうやら俺の知ってるようなキャピキャピわいわいしたようなやつじゃないみたいだ。ミーハーでもないだろう。そもそもあの女は先輩たちを知らないから、まあ当たり前っちゃ当たり前か。でもどうせ、女はすぐに俺を勝手に怖がって離れていく。だから期待なんてさらさらしない。この女みたいにお人好しなやつなんて、特に。 「はい」 「ありがとう、琴音」 「ううん、それよりおばあちゃんのシチュー楽しみだなあ」 「昔からシチューが大好きだもんねぇ」 「………………」 今までずっとそうだ。告白された女の7割が先輩目当てのミーハー。少しでも近づきたいから、俺を利用する。残り3割は、たぶん本気だろう。実際、顔立ちは悪くないし、むしろ整ってるほうだと自覚している。 利用する気か本気かはもう一目で分かるようになった。目は口ほどにものをいうとはよくいうがほんとその通りだよな。分かるし。実際に。だから本気なやつと適当に付き合う。そして俺のデビル化を見てごめんなさいと別れ話を切り出す。これ何回繰り返しただろ。だから俺は女が嫌いだ。口先だけのやつも、そうでないやつも、どうせ離れてしまうことなんて目に見えている。 「赤也くん、どう?」 「おいしいっす」 「あ、どうせ歳同じくらいでしょ?タメでいいよ」 「…わかった」 おばあちゃん思いで優しそうなこの女なら……いや、そんな人柄だからこそ。どうせデビル化した俺を見れば、離れていくかもしれない。 湯気が立ち上るシチューを一口含むと、心臓までいきわたりやわらかな暖かみを感じた。 |