Mr.Traveling Man | ナノ




冬独特の色素の薄い、青い天井を日光が細大漏らさずに照らし出す。快晴、よいテニス日和である。空の鮮明さと比例する私のわくわく上昇率は全く低下を見せる気配すらない。テニスについては試合すら目にしたこともなく、知識は皆無にほぼ等しかった。だけど、だからといって興味がなかったわけではない。触れる機会がなかったのだ。機会を待ってるだけなところから、今までの自分はそこまで思い入れしていなかったことがなんとなくわかる。そういえば、赤也君のテニスをするところを初めて見る気がする。話に聞いてはいたけど、全国大会出場の実績もあるらしいし、しかも通う高校もテニスの強豪校らしい。全国レベルの試合を生で見ることができるのだ。
テニスコートを管理する小屋のおじさんにラケットとボールを貸してもらい、赤也君に渡す。刹那、赤也君は「あ」、と声を漏らした。


「どうしたの?」
「練習相手いねーじゃん…」
「あ」


しまった…と頭を抱える赤也君に苦笑した。私は相手になれないし、ここらじゃ壁打ちスペースもない。貸し出しは1時間にしておいたが、どうやってつぶせるのか。専門外である私の頭はからからで浮かぶ要素すら思いあたらない。せっかくここまで来て、それなりのお金出して、コートも空きがあるというのに、どうすることもできないこのもどかしさ。二人して小屋の前でうーんと唸っていると、低音のか弱い声がミストのように充満した。


「あ、はい」
「もしかして、テニスする相手いませんか?僕もいないので、よければ練習試合を挑みたいんですが」
「え?」


ああ、そういえば彼、見たことある。同じ高校のテニス部で、県大会はいつも出場してるからよく表彰台に立ってる人だ。確か彼も2年生だったはず。
勿論、そんな都合のいい誘いを断る必要などなく。私と赤也君は快く承諾した。二人は左端の空いてるコートへと足を踏み入れ、私はフェンス越しに移動。お願いします、と彼は頭を下げてラケットを構える。関わったことは今まで一度もなかったが、丁寧で優しい人だという印象がもてる。ボールを宙に浮かせて、ラケットをふりおろす。パコン、と爽快な音と共にボールは高速に回転する。なんなく打ち返す赤也君の目はいつもより真剣で、いつもより活き活きとしていた。ボールを魂と比喩して「魂の一球」とか、有名な台詞では「障害無二の一球なり」なんて言葉があるが少し納得できた気がする。魂の打ち合い、なんて言うと少しありきたりになってしまうが。球をラケットの面にあてて打ち返す瞬間に、意思の強さに比例して何か熱いものを吹き込んでいる、そんな感じ。

結果は6ー3で赤也君の勝利となった。途中相手の少年も性格とはミスマッチしたニヒルな笑みをうかべたり、赤也君なんて全身赤くなったりしてたけど。とても活き活きとした戦場になってたと思う。通りすがる人がぎょっとした目で彼らを追うが、それすらも二人は視界になかったようだ。

「赤也君…」
「なに」
「すごかったよさっきの試合!赤也君強いんだね!」
「………は?」


あっけらかんとした間抜けな声が辺りに響いた。あれ私何か変なこと言った?、なんて慌てつつ率直な感想をだらだらと語った。相手の少年は同じテニス部ですごく強い人なんだよ、赤也君も全国大会出場するだけ強いって分かってたけど相手も強かったから、接戦したいい試合が見れて私すごく感動した!。ブレスは一体この一方的な会話の中でいくつうまれただろうか。そこまで饒舌じゃないから話もうまくまとまってないけど、迫力はあった。だろう。だって赤也君目を見開いて硬直してるから。少し柄にもなく弾丸トークしすぎただろうか。赤也君の顔は夕陽に照らされているせいかほんのり赤い。
「どうやったら、そんなに強くなれるの?」と聞くと、えーと悩みながら積み重ね?と返された。そっか、じゃあ赤也君頑張ったんだね。そう言えばまた硬直されるのだった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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