翌日。朝、目が覚めたときやけにすがすがしかった。いつもみたいに頭は霧が霞んだようになかなか正常に機能しなかった。今日も一日が始まる。昨日は学校を休んだし、2日もたてつづけに休むわけにはいかない。寝床からもそもそと脱して、洗面台へ向かった。 愛用のDoveで顔を洗って、クリニカで歯を磨いて、モンダミンでうがいをして、よし完璧。いつもと何変わらない動作を終えてリビングに行くと、もうおばあちゃんは朝食の支度を終えて座っていた。 「赤也を起こしに行きなさい」 「え?まだ朝早いし、寝かせてあげてもいいんじゃ、」 「皆で食事をとりたくてね」 たまにおばあちゃんはいつもは言わないであろう言動に出る。朝食に関してはあまり気にしないのに、急にどうしてそんなことを言うのだろう。歳をとるとなにかそういう、直感によく似た勘に鋭くなるのだろうか。 私は頷いて赤也君の部屋まで歩みを進めた。先程言った勘の話だけれど、私はそれが何に対しての勘なのかは全然分からない。でもきっと、自分にとって世界がひっくり返るような事件や事故が起きる時、に関係してるんじゃと思う。歳をとるにつれて死に近づいていると自分で理解してしまうために、少しずつ神聖化してるのではと思う。 こんこん、と軽くノックをする。応答はない。寝てるのかなと、思いたい。でも少し、いやかなり、嫌な予感がする。まさか、もう? 手にかけたドアが、やたらと重く感じた。こんな重みを感じたのは、両親が死んでからしばらくぶりだ。ぎい、と開ける。チャームポイントである海草のような頭は、見当たらない。 「……帰ったんか」 「……みたいだね」 「……悲しいかい?」 「うん。初めて、村で同年代の友達ができたと思ってたから」 「……でもゆくゆくはこうなると、分かってたじゃろう?」 「……うん。なんかあっけないなあ」 都会でできる友達と田舎でできる友達は違う。学校でできる友達と村でできる友達は違う。きっとこの違いは田舎に住んでないと分からないだろうし共感もできないだろう。 昨晩、祐造さんからもらったレモン味の飴玉を舌の中に放り込んだ。赤也君の分だ。これから朝食だとかそんなの気にしない。咀嚼するとレモンの甘酸っぱい夏の味が、口内に広がった。 Mr.Traveling Man |