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幸村君の相棒になる

0803 12:25

幸村君の相棒:ミュウ
ミュウに成り代わって、幸村君の相棒になるまでの話




高校生二度目の夏、私は交通事故によって亡命してしまった。あまりに早すぎる死は私を酷く後悔させた。しかしふと目が醒めたら私はいつの間にかミュウになっていた。いやいや死んでからミュウになるまでの過程があまりにぶっ飛びすぎているかもしれないが、実際そうなんだ。ミュウってあれだよね、ポケモンだよね。そこまでポケモンに詳しくないけれど流石にミュウくらいなら知っている。幼少期にリーフリーンをしていたんだから初代ポケモンならおおよそ把握している。

ミュウになったのはこの際深く考えないとして、問題はこれからだ。私が覚醒したのは大木の太い根元である。これから私はどうやって生活していけばいいんだ。一番最初の映画を思い出せ私。ミュウツーの襲に出てきたミュウはどうだった?あ、そういえば姿をくらますことができてたな。今の私はできるのだろうか。そうふと思いたち、適当に念じてみるとあら不思議。できてしまった。感覚としては腕を曲げるのと似ている。脳が腕を曲げるように高速で指令をだすように、透明になるのも少し念じればできてしまった。私、本当にミュウになったんだ。

行く宛もなく、森の中を徘徊していると小さな町が見えた。ちなみに始終姿を隠して、だ。ポケモンセンターとポケモンショップ、民家が4軒ある程度だ。さて私はこれからどうすればいいんだろう。そう不安になりつつ辺りを見渡すと、ある一軒家の庭でガーデニングを行う少年を発見した。藍色の髪を麦わら帽子で隠す少年は、花壇に植えてある花の手入れをしていた。

彼にここがどこなのか聞きたい。しかし困ったことに、私ことミュウは人間の言葉を用いることができない。できることと言えば、こうして透明になって姿を隠すことくらいだ。本当は4つ技も覚えているのかもしれないが、今はまだ試行錯誤してないために分からない。それにミュウは幻のポケモン。もしかしたら彼がロケット団のような悪の一味かもしれないのだ。ロケット団は私を利用して何をしでかすか分からない。ムサシとコジロウみたいな人達ばかりがいるわけでは決してない。私は悲しいことに、人間に対して警戒心を強く持たなければならない。だから下手に彼に近づくこともできない。

しかし、これだけ花に愛情を注げるこの少年は、本当に悪い人間なのだろうか。そう幹の上に立って彼を見ていると、少し強めの風が吹いた。「あ」と少年が言葉をもらした。少年の頭にフィットしていた麦わら帽子が吹き飛ばされたのだ。しかし風向きが風向きなために、こちらに迫ってくる麦わら帽子を私は咄嗟に掴んでしまった。

あ、しくじった。彼の方へと視線を向ければ、目をパチクリとさせて私を見ていた。私は姿を隠しているので、彼は帽子が浮いているように見えるのだ。そりゃそんなアンビリバボーな出来事に遭遇したら驚くよね。今更帽子を離したってアンビリバボーな体験をしたことに変わりはない。どうせだからちゃんと返してあげよう。私は麦わら帽子を両手で抱き抱えるように持ち、彼の近くへと恐る恐る近寄った。

警戒心を胸に抱きながら彼の前に立ち、帽子を差し出した。彼はきょとんと瞬きを数回繰り返した。



「ふふ、ありがとう」



彼はふわりと柔らかい笑みを浮かべた。こんなに優しく笑う人間を私は今まで見たことがない。しゃがんで帽子を受け取ったのを確認した私は少し恥ずかしくなり、がしゃんと音をたてながら高速でその場から離れた。今思えば普通に浮遊したまま帽子を渡せばよかったんじゃないかと思う。ただ私が元いた幹の上に戻ってから抱いた感情は、植木鉢を故意ではないにしろ割ってしまった後悔と罪悪感だった。高速で移動したときに私の体に当たった植木鉢は、家の壁にぶつかり粉砕してしまったのだ。彼が少し慌てて植木鉢を補修しようとしている姿を見て私は悲しくなった。





主人公はもともと対人恐怖症、閉所恐怖症の超臆病者。疑い深くもあるが根はとても優しい。なつくまでが大変。

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