壱
背が高く長い髪をした審神者、髪をふたつにくくった幼子の審神者、中年男性の審神者、厳格そうな審神者、軽薄そうな審神者……。目に映る限り、ここには個性ある審神者が沢山いた。それぞれ、自分の近侍にしているのであろう一振りの刀を従えて。
――審神者会と呼ばれる集会が半年に一度、現世のとある会場で開かれていた。そこで各々の本丸の状況や、遡行軍との戦況の報告をしている。仕事の話だけでなく、審神者同士の交流も行われているそうで、主は「会議は面倒だけど、審神者さんたちに会えるのは楽しみ」なのだと仰っていた。
今も、死に装束を纏い、顔を打ち覆いで隠している女の審神者と楽しそうに話されている。主が楽しそうにしているお姿を見るのは好きだ。主が幸せならば俺も幸せを感じる。だが、女の話の長さにはいい加減苛立ちが隠せなくなってきた。待てと言うのならいつまででも、そうは言っても、ただ後ろに控えているだけでは飽きが来る。主をただ見守るだけならば飽きる事はないが、俺以外の誰かと親しそうにしている様子を見守るだけなのは、どうにも面白くない。――主は俺だけを見てくだされば良いのに。
死に装束の女が連れているやたらと体格の良い「へし切長谷部」も、その表情から苛立っている事が見て取れた。
「主、そろそろ……」
「ああっ、そ、そうですね……引き留めてしまってごめんなさい」
「いえいえ、審神者さんとお話できて楽しかったです!」
とうとう焦れたのか、体格の良い「へし切長谷部」が死に装束の女に声をかけた。ああ、これでやっと長話が終わる。帰ろうと動いた瞬間、何かにつまずいたのか、きゃあ、と声を上げて死に装束の女は体勢を崩した。
――このままでは主とぶつかってしまう! 主をお守りしなくては、その一心で前へ出て主をかばうと、案の定死に装束の女はこちらに倒れ込んできた。
「…………ッ!」
倒れ込んできた女を支える事など容易い。俺の主にも、例の女にも怪我はないように思う。ただ、倒れ込んできた拍子に、女の大きな胸が、当たった。
「ご、ごめんなさい……! 大丈夫ですか!?」
「ッ、いや、俺は何ともない」
「そ、そうですか? 本当にごめんなさい……!」
「……主を支えてくれた事には感謝する。だが貴様! その反応は何だ!? まさかドサクサに紛れて主の胸を触ったりなどしていないだろうな!?」
「なッ!? だ、誰がするか! 主以外の女に興味などあるはずもない!」
「こんなにも愛らしい主に興味が湧かないだと貴様ァ!」
今にも抜刀しそうな勢いの「へし切長谷部」に対し、死に装束の女は「おやめなさい長谷部!」と必死に声を張り張り上げている。俺の主も「長谷部! 応戦しちゃだめ!」と、待て、の命を出す。
どんなに諫められても、相手の方は納得がいっていない様子で「撤回しろ」と喚き続けけ、死に装束の女に怒られていた。
乱痴気には程遠い
「あそこの長谷部たち何あれ……こわい……」
このやりとりを見ていたのであろう、制服を着た黒髪の少女はぼそりと呟いた。