「主、お飲み物を用意致しました」

「わあ、長谷部さんありがとうございます!」

 ゆるく巻かれた髪を揺らしながら、俺ではない別本丸の長谷部から飲み物を受け取った審神者は、にこりと微笑んだ。礼を言われた長谷部は「当然の事をしたまでです」と、審神者に微笑みを返す。
 ――そのふたりの距離は、とても近い。顔を寄せ合い、雑談に花を咲かせている。
 彼女らは恋仲なのだろうか。いや、恐らくそうなのだろう。会話を続ける彼女らの顔は幸せそうに見えた。

「あ、そういえば先ほど他の審神者さんから聞いたのですが、刀剣男士の間で風邪が流行っているそうですよ。長谷部さんも気を付けてくださいね!」

「ええ、気を付けます。ですが、その……もしも俺が風邪をひいてしまった時は……」

「もちろん、看病は任せてください!」

「……あの時のように?」

「え? あっ……!」

 ぶわ、と審神者の顔が赤く染まる。この会話のどこに顔を赤くする要素があるのかは俺には分からないが、恐らくふたりの中で何かがあったのだろう。黙り込んだ審神者を見た長谷部もまた、冗談です、と照れたように言っていた。

 一種独特の甘ったるい空気を醸し出す別本丸の長谷部と審神者を見て、チリ、と胸の中で何かがくすぶったように感じた。
 ――羨ましい。己の主と親しい間柄になって、ああして幸せそうに笑んでいるあの長谷部が、羨ましくて仕方がない。俺だって主に懸想している。けれど、あいつのように恋仲にはなっていない。なれていない。どうしたら、どうすれば俺は――。

「長谷部ごめん! お待たせ!」

 主が用事を終えて戻って来た事によって、嫉妬と焦燥で黒く沈みかけた思考が現実へと引き戻される。こんなに時間をとられるなんて思ってなくて、と眉を下げて笑う主のお顔を見て、ぎゅう、と胸を締め付けられるような思いがした。

 ――やはり俺は、この方が好きだ。他の誰でもない、この方が。

 別本丸の長谷部がそこの審神者とどういう仲になろうとも、俺には関係ない。「俺」の主はこの方だけで、「俺」が懸想しているのもこの方だけなのだ。他に惑わされる事などない。俺には俺のやり方で、主のお傍にいればいいんだ。

「主が迎えに来てくれると信じていましたから、これくらい待ったうちに入りませんよ」

「ええ、本当に? 長谷部、待つの苦手じゃん」

「……主を拘束する役人をいつ手討ちにしようかと思っていました」

「あはは、ごめんって! じゃあ、そろそろ行こっか」

「ええ、主命とあらば」



意気揚々と愛を掲げる
(いつかはきっと、あなたの伴侶に)