まどろむ午後


年齢操作、社会人

 朝、と呼ぶにはいささか遅くなってきた九時過ぎ。休日のこの時間は特に面白い番組もなく、見るとはなしにテレビを眺めながら濃い目に淹れたコーヒーをちびちび飲んでいた。
 真緒の学友だった鳴上嵐がモデル、アイドルと経て最近では役者も少しずつ始めたようで、出演作の番宣も兼ねてバラエティ番組にゲスト出演していた。
 相変わらず絵に描いたような王子様の風貌にかっこいいなぁ、と眺めていれば寝室の方から音がした。シーツの衣擦れの音は、どうやら真緒が目を覚ましたらしい。ガチャリと開いた寝室のドアからはくたびれた寝間着用のシャツに、なぜかいつも寝起きにはズボンを脱いでしまっていてパンツ姿の真緒が出てきて、お腹をかきながらトイレに入っていった。
 まるでアイドルらしからぬその姿に毎回くすりと笑ってしまう。家の中、安心しきっているのだと思えば愛着もわく。気取らない、どこにでもいる普通の人だ。
 トイレから戻ってきた真緒が「もう九時じゃんかよ〜」と言いながらソファを挟んで後ろから抱き着いてきた。寝ぐせのついた、長い前髪をかき分けてやりながら「おはよう」と言えば「ん、はよ」と短く返ってくる。

「なんで起こしてくれないんだよ」

 まるでぐずる子供のように肩口に額を押し付けてくる真緒は、甘えたがりの猫のようでもある。

「だって今日休みだって言ってたじゃない」
「んー」
「朝ごはん食べる?」
「ん……」

 まだ眠いのか、「真緒?」と呼び掛けてみても生返事しか返ってこない。

「寝るの? 起きるの?」

 体ごと振り返って真緒の頭を両手で撫でながら顔を覗き込むと寝ぼけ眼のようで、けれどもしっかり焦点のあったグリーンの瞳と目があった。

「……一緒に寝よ」

 昨夜それほど遅くまで起きていたわけでもないのにこんなに眠そうにするのは、寝ぼけたふりをして甘えたいだけなのだ。それに気づいて、でも気づいてないふりをして「しょうがないなぁ」と甘やかしてやればわずかに口角を上げた真緒が首に腕を巻き付けてきた。まるで猫のように頬擦りをしてくる。
 テレビの電源を切って寝室に向かえば、閉め切ったままのカーテンのせいでそこは薄暗い。真緒に導かれるように布団に入ればほんのりと暖かさが残っていた。

「あ、真緒?」
「これじゃあ寝にくいだろ」

 ごそごそと布団の中でうごめいていた真緒の手によって履いていたデニムを脱がされた。ぽいっと投げ捨てるようにベッドから落とされたそれが小さく音を立てて床に着地した気配を感じる間もなく、真緒の素足がデニムを脱がされて心もとなくなっていた足に絡みついてきた。

「真緒、足冷たい」
「ナマエは温かい」

 先ほどからずっとパンツ姿でいたのだ。真緒の足に私の体温が奪われていく。巻き付いてきた腕に抱きしめられて彼の胸板に顔を埋める。真緒の香りが鼻腔を擽って一気に落ち着き、眠くなる。
 身じろいで真緒を見上げてればお気に入りの抱き枕を抱いて眠る子供の様に、わずかに笑みを浮かべて目を閉じていた。じわじわとこみ上げてくる愛おしさを感じながら、真緒の背に腕を回して、鼓動のリズムが合わさるのを感じながら眠りに落ちた。



 まどろみの中、頬を撫でられている感覚に瞼を押し上げたら至近距離の真緒の、綺麗なグリーンがあった。

「起きた?」
「ん。真緒は? もう十分寝た?」
「ああ。ちょっと寝すぎて頭痛い」

 学生のころよく見た、眉を八の字にして苦笑した真緒に「寝すぎ」と笑って時計を見れば正午を過ぎた頃だった。

「昼、何か食べに行くか?」
「うん」

 床に落とされたままのデニムに足を通せばひんやりとした。それがまだ残っていた眠気を綺麗に拭い去ってくれた。


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