泡風呂
ぶくぶくと泡立つ浴槽に身を沈めてその石鹸の香りを目一杯吸い込めば肺の中まで綺麗に洗われていくような気がする。泡風呂はいくつになっても楽しい。
湯につけた手を目の前まで上げる。親指と人差し指で作った輪の中に膜ができて、そこに息を吹きかければぽわんっと小さなシャボン玉ができた。それを何度か繰り返す。コツを掴んで大きなシャボン玉が作れるようになってきた。ぷかぷかと天井に向かっていくシャボン玉を見るともなしに眺めていたら、不意に浴室のドアが開く音がした。
音の犯人はわかっている。どうせ、彼しかいない。擦りガラス越しに見える衣服の色彩が肌色になっていくのをぼんやり見ていると勢いよくドアが開いた。
「やあ」
「ヒソカさあ、なんで私が風呂入ってる時間に来るわけ?」
「たまたまだよ、たまたま」
語尾にハートマークが付きそうな彼の声音から察するに、随分と気分がいいらしい。
「で、今日はどこから入ってきたの? 窓? ベランダ?」
「玄関からに決まってるじゃないか」
合い鍵なんて渡していないしこのマンションのオートロックは厳重だ。それを正面突破してきた彼に、もうこれ以上何を聞いても無駄な気がした。
「楽しそうなことしてるね」
シャワーでかけ湯をしたヒソカが浴槽に入ってくる。
「ちょっと、狭いんだけど」
ご丁寧にも私の背後、浴槽との間に入ってくる。当然私の背はヒソカの胸板に当たってしまうわけで、逃げる間もなくするりと彼の腕が腹部にまとわりついてくる。
湯から出ている肩の部分にヒソカが唇を寄せてくる。しかし泡風呂のせいで全身が妙に石鹸ぽさをまとっているからか、ヒソカはすぐに唇を離した。
「……残念」
なにがよ、と心の中で返して再び指で輪を作る。
「それ、バンジーガムでもできるかな」
「変化系には向かないんじゃない? どっちかっていうと放出系でしょ」
「んー」
私の真似をしたヒソカが指で輪を作りそこにバンジーガムを伸ばす。息を吹きかければシャボン玉のように丸くはなるが、しかし彼の手からは離れない。放出系の修行をしていないのだから身体から離すのは難しいらしい。けれどヒソカの手のひらにのったその球体はシャボン玉に似ている。
指でつついてみれば弾力があり、ゴムボールだ。
「意外といけるじゃん」
「でもボクの好みじゃない」
そういうとパンッとはじけたそれはいつものオーラの形状に戻ってヒソカの手の平にまとわるように戻っていった。
オチなし。
念のとこは想像と妄想と捏造といろいろ。根拠もなければ特に深く考えたわけではないので適当です。
最初はG・Iにいた馬的な感じでイメージしてました。