眠りの森の



 鬱蒼と草木が生い茂るここは密林で、到底一般人たちが好んで立ち入るような場所ではない。手つかずの自然は豊かと言えば聞こえはいいが、手入れのされていない所は荒れているのも同然で、あるのは獣道のみ。
 そんな森の中を私はもうすぐ三日、一人で彷徨っていることになる。
 事の発端は三日前の昼下がりだったか。昼食が終わった頃になってカイトさんが急に荷物をまとめ始めたのだ。

「移動ですか?」
「いいや、ちょっとしたゲームをしよう」
「ゲーム?」
「なに、簡単なかくれんぼだ。俺が隠れてお前が探す」

 そういったカイトさんはまとめた荷物を背に少し屈むと、次の瞬間にはそこから消えていた。「え」と呟いた私の言葉も、彼の耳には届かなかっただろう。
 もともといろいろなところを移動しながら修行をつけてもらっていたから荷物自体は少ないし何かあった時のために最低限のものしか持ち歩かないようにしていたが、まさかこんな事態になるとは。カイトさんの馬鹿野郎。

 反論しようにも反論したい相手がいない今、先ほど彼に言われたかくれんぼを遂行しなければならない。一人残されたその場所で暫しの間ぽつねんと立ち尽くし、しかしそうしていても仕方がないのでそそくさと荷物を纏めた記憶はまだ新しい。カイトさんを探すって……しかもこの森の中から? いったい何日かかるだろうか。
 おそらく普通に近づいて行ったとしても気配で気づかれてしまうから当然『絶』はしなければならないだろう。『円』を使おうにも今回のように広大な森の中で範囲が特定できない場合、これはあまり得策ではない。

「うーん……とりあえず水辺からそう離れない範囲で探してみようかな」

 そう思って川を挟んだ範囲に目星をつけてカイトさんを探し始めたのが初日で、それから三日、思わぬ形でカイトさんを発見した。

「……この人、ほんとにハンターなのかな」

 そう思わずにはいられない今の彼の様子は、木にもたれ掛って昼寝をしていて、なおかつ周囲に小動物をはべらせている状態だった。
 森に溶け込んでいるのか、なんなのか。帽子を目深に被ったカイトさんを囲むように小動物たちも休息している。彼のそばは肉食動物などの天敵から守られる安全地帯だとでも思われているのだろうか。
 私が近づいたことによって目を覚ました数匹は耳をぱたぱたと動かしながら警戒した様子で、けれどもカイトさんの傍からは離れようとしない。
 私が近づいたら、きっと動物たちは脱兎のごとく逃げていくんだろうな。

「……」

 小動物に逃げられるのは何だか嫌だし、それにカイトさんが小動物をはべらせている姿が妙に面白く感じて、カイトさんが起きるまでしばらくこの状況を見守ることにしようと考えた。


小動物をはべらせるカイトさんが見たい。いいハンターってやつは動物に好かれるので。


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