メイドは感慨深く見る


「ちょっと、いい?」
「なんでございましょうか?」

 滅多にご自分から私を呼びつけるようなことをなさらないレギュラス様が珍しくお声をかけてこられました。
 抱えていた洗濯物の山を抱き直してレギュラス様の方へ足を向ければ「それ置いて、俺の部屋きて」と申しつけられました。そのまま足早に自室に戻られるレギュラス様の背中を見送り、さてはて何を言いつけられるのかと首を傾げながら洗濯物を抱えなおして廊下を足早に抜けました。



 軽く扉をノックしてお部屋に入れば、レギュラス様は珍しく蓄音機を弄っておられました。

「どうされたんですか?」
「練習、付き合って」

 そう申されたレギュラス様はシャツの袖を捲り上げると私の方へ手を差しだしてこられました。これは有無を言わさず練習に付き合わされるようです。

「ダンスなんて久しく行っておりませんのでお相手になるかどうか」
「いないよりマシでしょ」

 それは確かに、一人でパートナーがいない状態で練習するよりかは良いかもしれませんが、しかし足手まといになるようならそれこそいないほうがいいのではないかと思います。

「早く」

 催促され、私は諦め半分の気持ちでレギュラス様の御手に自身のそれを重ねました。
 ダンスを踊るには広いとは言えない室内で、それでもできる限りいっぱいの動作をすれはそれも様になってきます。重ねたレギュラス様の手の大きさや、シャツの裾から覗く男らしく筋肉のついた腕に、男の子だと思っていたのにもう随分と男性に成長なさったのだと改めて考えさせられます。

「懐かしいですね」

 つい出た言葉に、レギュラス様の反応を窺うようにちらと表情を盗み見れば何とも微妙そうな表情で「そうかな」と申されました。
 以前もこうやってダンスの練習にお付き合いしたことがあって、そういえばあの時は私とさほど身長も違わず必死にステップを踏むレギュラス様に思わず笑みを零してしまって機嫌を損ねてしまったことを思い出しました。
 今ではしっかりと見上げるまでに成長なされたレギュラス様を仰ぎ見ればぱちりと視線が合いました。

「……なに」
「いいえ、成長なされたんだなぁと思いまして」

 親のようなことを言えばレギュラス様はいつも不服そうに眉を寄せます。けれども私の本心からの言葉だと理解いただけているのか、変に反発なさることはありません。
 ちょうど良いタイミングで曲が止まり、ステップも止まります。立ち止まっても少しの間手を離さないでいたのは互いの名残惜しさでしょうか。

「レギュラス様のリードのおかげでなんとか私の下手の踊りも形になりました」
「まあまあだったけどね」

 手を離し、蓄音機へと足を向けたレギュラス様の物言いは、私には照れ隠しをしているようにしか思えませんでした。



腕まくりして覗く腕の筋肉がたまりませんなぁ

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