それはどこか初恋にも似た青春の香りだった


「集合ー!」

 誰よりも高い位置に居たチャーリーの拡張された声がピッチに響いた。
 各々にフォーメーションを組んで練習をしていた選手たちが箒の柄を一様に方向転換させ、ピッチの中央に集まる。
 喉元にあてていた杖をしまったチャーリーは集まった選手たちの中央に立つとよく通る声で練習の終了を告げた。



 それぞれに城への帰路につく選手たちの背中を見送り、最後に更衣室を出たチャーリーは施錠し、鍵をポケットにしまった。

「待ってチャーリー!」

 そこへ駆け寄ってきたナマエが「ごめん、まだあった」と手にしていたクアッフルをチャーリーにパスする。器用に片手でそれを受け止めたチャーリーはポケットにしまった鍵を取り出して鍵穴に刺した。

「どんだけぶっ飛ばしたんだよ」

 練習の途中にピッチ外に出してしまったらしいそれ。更衣室内の用具庫にクアッフルをしまったチャーリーが今度こそ施錠する。

「わざとじゃないよ」

 チェイサーの一人でもあるナマエは肩を竦めながら言い訳を口にする。

「飛距離伸ばそうって練習してて」
「途中遊んでたろ」
「あ、ばれてた?」

 選抜メンバーと補欠メンバー交えての練習で、七人のチェイサーでパス回しをしていたのをチャーリーは見ていた。

「あれだけ大声出して笑ってたらわかるだろ」

 隣に並んだナマエの頭を軽く小突いたチャーリーに、ナマエは小さく笑って「だってマイクが思いのほか飛ばすから」と他人のせいにし始める。

「バカやって肩壊すなよ」
「はぁい」

 わずかに首をすくめたナマエは、しかしすぐに「そういえば」と話題を切り替えてチャーリーに話を振る。
 城に戻る二人の道中は絶え間なく笑い声が零れていた。



 ようやく城まで戻ってきた二人が正面門から大広間の前を通りかかった時、二人の肩を同時に叩く人物が現れた。

「練習お疲れ」

 二人の背後から現れたのはビルで、驚いて肩を震わせたナマエが小さく胸を撫で下ろす傍らで、チャーリーが「びっくりさせんなよ」と小言を漏らした。

「全然気づいてなかったろ」
「そりゃあ背後に居たら気づかないだろ」

 ビルとチャーリーの掛け合いを聞きながら、ナマエがそわそわと髪を直している。

「どう? 練習いい感じ?」
「うん! 絶好調!」

 満面の笑みをもって頷いたナマエに、ビルは「じゃあ次の試合は期待してもいいな」と笑みを浮かべた。

「そろそろ優勝杯欲しいし、頑張ってくれよ」

 そう言って去って行ったビルの背中が見えなくなるのを待って、ナマエが慌てたように腕を顔に近付けて「どうしよう! 汗臭くなかったかな!」と鼻を鳴らした。
 人気者のビルを前にしたナマエのそれはいっそ恋する乙女で、箒を乗り回して空を飛ぶ彼女の姿とは別の一面だ。
 変に気にするナマエに、チャーリーがその肩口に顔を近づけるとくんくんと鼻を鳴らす。

「大丈夫大丈夫、いつも通りだ」
「ほんと? よかった!」

 ほっと肩を撫で下ろしたナマエは近すぎるチャーリーとの距離には気づかずに、遠い背中を追いかけていた。

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