掴んではいけない手
隣を歩く彼の首元にも、もちろん私のそこにも、私たちを隔てるカラーはなかった。
ネクタイやローブの裏地、セーターの差し色。そこかしこに自分の所属する寮のシンボルカラーが入れられているこの学校の制度は、私は好きではなかった。
まるで区分されているようで、無理矢理枠に嵌められているようで。
こうやってドラコと一緒に並んで歩くのはいつ振りなのだろうかと考えたら、入学の日以来な気がした。
あの日スリザリンに組み分けられたドラコと、グリフィンドールに組み分けられた私は、それ以来学校で話すことが少なくなった。
純血家系が皆、スリザリンに入寮するわけではないとは知っていたけれど、よもやそこと犬猿の仲の寮に振り分けられてしまうなんて思ってもみなくて、周囲のその態度に自然と疎遠になった彼との仲が戻ってきたのは、三年生を終えた夏休みだった。
魔法族の集まる、いわば貴族のパーティに参加した時、おおよそ数年ぶりにドラコと正面向いて喋った。
互いにぎこちなく、けれどもすぐに幼い時の感覚を取り戻した私たちは、まるで数年の空白がなかったかのようにお喋りに興じた。
そんなドラコとも、学校という枠の中に入ってしまえばやっぱり疎遠な関係のままで、けれども互いに一人でいるときに会えば挨拶もするし、時間があれば立ち話もした。
そんな付かず離れずの距離感で過ごした学生生活は、あまり楽しいものだとは思えなかった。
いま思えば、私はドラコに恋をしていたのかもしれない。
寮なんていう隔たりのせいで自分の気持ちに素直になれないまま月日が過ぎた。
学校以外で顔を合わせれば他愛もない会話で盛り上がり、そのたびに「学校、嫌だな」と愚痴を漏らした気がする。
「ねぇ、ドラコ」
「なんだ」
隣を歩くドラコの手に、伸ばせば簡単に触れられる距離なのに、どうしても手は重たくて、ぎゅっと握った拳を後ろ手に隠した。
「もっと、ドラコと一緒にいたかったな」
寮が違えば、もっと違った日々が送れたのかもしれない。グリフィンドールでさえなければ、きっともっとドラコと関われたかもしれない。
そんな後悔の念がぐるぐると溢れて回って、私は小さく息をついた。
「……だったら」
急に立ち止まったドラコは、そう言って一度口を閉じると、真っ直ぐ私を見て言った。
「だったら、一緒に来ないか?」
どこに、なんて聞けるはずがなかった。彼は純血の、スリザリンの、あちら側に属する子だ。
落とした視線の先のつま先の汚れを視界の隅に留め、私は差し出されたドラコの手を見た。
男の子の大きな手。触れたい。そう思って思わず差し出した手が一瞬触れて、しかしすぐに引っ込めた。
「……ごめん」
そう呟くように言うと、ドラコは差し出していた手で拳を作り、それを力なく下ろした。
「……そう言うだろうと思った」
「……」
そのまま歩き出したドラコを追って、私も隣に並ぶ。
付かず離れずのこの距離感が、きっと私たちの一番いい距離なのだ。
title by 休憩