交わらない視線
「何見てるの?」
大広間、グリフィンドール寮の席について食事をしていると、不意に隣に座っていたリーマスがそう問いかけてきた。
「……別に」
向けていた視線を周囲の人だかりからテーブルに並ぶ食事に移した。今日はチキンがない。
「ああ、彼女……」
俺の向けていた視線の先を追って見つけたらしいリーマスは、ナマエの方を見ながら口を開いた。
「話しくらいすれば?」
「……」
グリフィンドールの席からは一番遠い、大広間の反対側の壁際に座ったナマエはスリザリン生で、その横には弟がいる。
弟の婚約者のナマエは、数年前までは俺の婚約者だった。もちろん親同士が勝手に決めた、いわば許婚というやつだったが、それなりに俺はあいつのことを気に入っていた。
婚約破棄になったのは言わずもがな、俺がスリザリンではなく、グリフィンドールに組分けされたからだ。当然それからは家では勘当状態の扱いで、ナマエも俺への態度が余所余所しくなった。どうせ親に何か言われたのだろう。
それから程なくして弟のレギュラスがナマエと婚約するという話を聞いた。まあ、順当にいってそうだろうと予想はついていたが、妙な気分になった。
見ればナマエはレギュラスに向かって何か話しかけている様子だが、けれどもレギュラスはひたすら無表情で返事をしているのかも怪しい。
「……あんな朴念仁の何がいいんだ」
頬杖をついて口をついて出た言葉は、思った以上にトーンの低いものになった。横でリーマスが苦笑する。
「シリウスはもっと素直になるべきだね」
「……うるせぇよ」
食後のデザートを食べ始めているリーマスを横目に、テーブルに並ぶ食事を見ても食欲がわかない。
「先戻ってるわ」
「あっそう。じゃあね」
ここに居てもあまりいい気はしない。席を立って、ふいにスリザリンの寮に目をやって、その時一瞬だけナマエと目が合ったような気がした。
「呪文学のレポート、今日までだからちゃんとしなよ」
リーマスの声を背に俺は片手をひらひらと振って適当に応えるとそのまま大広間を後にした。
「ナマエ?」
「あ、え? なに?」
「……別に」
ボーっと遠くを眺めていたナマエに声をかけたレギュラスは、彼女の追う視線の先に気付いて小さくそう呟くと黙って食事を再開した。