虚弱体質
「い、いやだ……」
「わがまま言わないの」
自宅に届いたホグワーツ入学許可証を見て、私は愕然とした。いつかはこの日が来ると思っていたしそれなりに腹もくくっていたつもりだったが、実際の手紙を目にして自身の虚弱体質が発動した。
「うう、お腹痛い」
「嘘おっしゃいな」
「その手には乗らないわよ」という母様はさすがというか、私のことを知り尽くしている。確かに手紙を見て虚弱体質が発動したのは嘘だが、しかしこれからの生活を思うとやっぱりお腹が痛くなる。
「あ、そうそう、ドラコちゃんが一緒に買い物に行きましょうって」
「え?」
母様がすべてを言い切る前に私はその言葉を遮り、同時に屋敷のベルもこれから発しようとしていた私の言葉を遮った。
「ナマエ! 僕直々に迎えに来てやったぞ!」
聞こえてきたのは紛れもなく幼馴染の声で、勝手知ったる何とやらといった体で私の目の前に登場したドラコ。
さっと母様の後ろに隠れたが彼にはそんなことはお構いなくといった様子でぐいっと腕を引かれた。
「ひ、久しぶり、ドラコ」
「ドラコちゃんいらっしゃい」
母様がドラコをドラコちゃんと呼ぶのはうちの母とドラコの母が学生時代から仲で、そのおかげもあって私とドラコはそれはもう、生まれた時からの幼馴染である。
幼少のころからドラコと一緒に育てられた私はドラコの幼いながらの傲慢ちきな性格の一番の被害者だ。やんちゃ盛りのお坊ちゃまのわがままに振り回された日々を思うと、いや、お腹が痛くなるからやめよう。しかし忘れはしない、あのいじめとも呼べそうな苦痛の日々。両親たちは「仲が良いのね」と微笑ましく見守って私を助けてくれなかったから、私がこんな体質になった原因は彼らのせいでもある。ともあれドラコを前にすると頭痛・腹痛・胃痛など身体に不調をきたすようになった。これはドラコに対してのみ発症する虚弱体質である。
「お、お腹痛いから今日はパス……」
「お前相変わらず軟弱だな! そんなのではいつまで経っても成長しないぞ!」
「ドラコちゃんの言う通りよ」
腕を引っ張るドラコに背を押す母様。お腹がきゅるきゅるいうのがわかる。
「ま、待って、ほんとに……」
痛むお腹を抱えてしゃがみ込めばドラコは「仕様のない奴だな」と私の手を離し、偉そうに腕を組んでため息をつく。
「僕は外で待っているから準備ができたら来いよ。あまり待たせるなよ!」
びしっと指をさしてそう告げたドラコは踵を返して去って行った。
「ほら、用意するわよ」
「うう、いやだぁ……」
ホグワーツに入学してしまえば毎日のようにドラコと顔を合わせなくてはならない。それを思うと楽しいはずのホグワーツライフも悪夢のように思えてくる。
「(せめて寮だけは別になればいいんだけど……)」
痛むお腹を抱えながら自室に向かうが、自分の考えていることにはっとして頭を振った。
「スリザリンの寮以外はありえない」
それは自身の純血一家への誇りと家系へのプライドだ。しかしこの虚弱体質ではプライドなんて言ってられない気がする。
「どうにかしなきゃなぁ」
そう考えてドラコの顔が脳裏に浮かぶと同時に、頭痛がした。
待ってろよ、ホグワーツライフ……。