春の図書室
暖かい日差しが差し込む春の図書室にはどこか柔らかな雰囲気まで漂う。
変身学に関する本が並ぶ棚の近くで六人掛けのテーブルを占拠したナマエは、けれども勉強ではなくうたた寝を遂行していた。
テーブルには広げたままの書物が三冊。それから積み上げられたものが四、五冊。バリケードのようにナマエの周囲を囲ったそれの中央には長い羊皮紙と、走り書きのメモを残すための切れ端が数枚。
長い羊皮紙の半分ほどはすでに文字で埋まっている。周囲に散らばったメモにはナマエにしか理解できないような一文が書かれていたり、本の名前とページ数が記されていたり、解読不能なミミズが這ったようなものまである。
そんなうたた寝に興じるナマエの横にはリーマスがいて、彼は彼でナマエの並べた本とは関係のないタイトルの本で読書に興じていた。
静かな室内にはページをめくる音、羊皮紙に羽ペンを滑らせる音、隣で眠るナマエの吐息と、どこか遠くから聞こえる外ではしゃいでいる者たちの声。
ずいぶんと長くそれらを感じていると、ふいにナマエが身じろぎをして身を覚ました。
「寝過ぎだよ」
リーマスの声を聞いて「ん、」と小さく漏らしたナマエは寝ぼけ眼をこすり、身体を起こす。ぐっと伸びをすれば固まっていた筋肉が綻んで気持ちいい。
「おはよう、リーマス」
「……寝坊助。レポート手伝ってっていったのはどこの誰」
「ごめんごめん」
「休憩終了―っと」そう言って開いたままだった本を手に取るナマエに、リーマスは「ここ、この文」とレポートのヒントになるものを指す。
「これすんだら散歩でもしよっか」
「うん」
「早く終わらせる」といったナマエは羽ペンを握りなおして羊皮紙と向き合った。