イエス、マイダーリン!


「リーマス、結婚しよ」

 先走った想いが私の口を勝手に動かしてそんな言葉を紡ぎだした。リーマスはリビングのソファーに座っていた私の方を見て虚を衝かれた顔をしている。驚きで手に持ったマグカップを落としてしまいそうな、そんな雰囲気。なんかかわいい。けど、あれ、返事がない。

「リーマス……?」

 何か言いたそうな顔をして眉尻を下げて困った顔をしたリーマスに不安がよぎる。もしかして結婚したいと思ってたのは私だけでリーマスはそうじゃなかった、とか……。え、どうしよう、なんかすごく悲しくなってきた。私一人舞い上がって毎日あれこれ考えながら過ごしてたのかな。些細なことにも変に想像を膨らませてたことが、なんだか急に恥ずかしくなってきた。

「り、リーマス、黙らないでよ」
「……ごめんね」

 そう言った彼はなぜか私に杖を向けてきて、「え、なんで杖向けるの」と言い終わる前に彼の唇が呪文を詠唱した。

「オブリビエイト」



「……あれ?」
「どうしたの?」

 遠退いていた意識が戻ってきてはっとした。まるで授業中に眠りかけていて、でも完全に眠りに落ちる前に意識が戻るあの感じ。

「さっき、何か話してなかったっけ」
「そう?」

 湯気のたつマグカップを手に何故か杖も手にしているリーマスに「何で杖持ってるの?」と尋ねれば「ココア、冷めたからまた温かいの出したんだ」と言って彼は杖をしまいながら私の隣に座った。一口ココアをすすったリーマスはそれが熱かったのか少し眉をしかめてマグカップをテーブルに置いた。私は私でテーブルの下に積んであったいくつかの雑誌のうちの一冊を手にとってそれを読もうとしたら、リーマスが私の名前を呼んだ。

「なあに?」
「結婚しよっか」
「……へ?」

 ロマンチックさもなくそういってきた彼に思わず変な声を出してしまった。リーマスの方をみればソファーの背もたれに腕をのせて私の方に体を向けている。どこか自信に満ちた顔。「返事は?」と聞いてくるリーマスに、そんなの決まってると心の中で呟いた私は勢いよくリーマスに抱きついた。

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