悪戯完了
談話室に降りれば暖炉の前のソファーとテーブルを占領する悪戯仕掛け人の面々が見えた。こちらを向いて座っているのはリーマスとジェームズで、ピーターは横向き、シリウスはこちらに背を向けている。
そんな彼らは今日もきっと凝りも飽きもせずに悪戯の計画を練っているのだろう。
シリウスが何かを手にぶつぶつ呟いているから何をそんなに真剣になっているのかと思って背後からそっと近づいてやる。
するとテーブルの上に広げた羊皮紙に視線を落としていたリーマスがこちらに気がついた。それにつられたようにジェームズも顔を上げてこちらをみてくる。
それに対して私は立てた人差し指をそっと自分の唇に当てて口を動かして「シー」とジェスチャーで伝える。ついでに先ほどから相変わらずぶつぶつ呟いているシリウスを指差して示してにっと笑えば、二人は納得したように小さく笑った。
ジェームズに至ってはいまだ気付かないシリウスを見てこれから起こるであろうことを想像してか小さく肩を震わせている。
「……何一人で笑ってんだよ、気持ち悪ぃな」
「いや、……なんでも、ないよ」
顔を背けてクツクツと喉を震わせて笑うジェームズに気付いたシリウスが顔を上げたが、すぐに怪訝そうな顔をしてまた手元に視線を落とした。
シリウスの手元が見える位置まで移動した私は彼の視界に入らない位置からそれを覗き込む。
「(あれ、普通の本だ)」
てっきり悪戯の算段をしているのかと思えば意外にも今日は課題のために参考書を広げていたらしい。
真剣そうな横顔を見ながら私はすっと腕を伸ばして彼の首にするりと巻きつける。シリウスの肩が揺れて彼が振り返るその前にその耳元で「シリウス」と呼んでやればまた驚いたように肩が揺れた。私はシリウスが振り返るより早く彼の首に巻きつけた腕に力を込めて彼の頬に自分の頬をぴたっとくっつける。
その瞬間、もう一度揺れると思っていた肩は予想に反して動くことはなく、逆にぴたりと動きを止めた。
「シリウスー」
頬擦りをして甘えたような声を出してやれば一瞬意識を飛ばしていたシリウスがはっとしたように私の腕を剥ぎ取った。
「ななななにしやがる!」
「何ってただのスキンシップじゃない」
完全に腕が剥がされる前にもう一度彼の首に腕を回してまきついて、今度はそっと彼の耳に唇を押し付けてやる。
「!」
見る見るうちに顔を真っ赤に染めて耳まで朱色になったシリウスを見て、私もリーマスもジェームズも一緒になって大笑いした。
(どうだ、悪戯される気分は)
(あとで覚えてろよ!)