星に願いを



例えば。
もし眞魔国と地球の空が繋がっているとしたら。
俺達はどんなに離れていても一緒にいられる気がするんだ。





+++




「星空が綺麗っていうことは、地球も眞魔国も変わらないよな」

自宅のベランダから空を見上げながら、ふと、隣にいる村田に言った。
村田は「そうだね」と頷くと、もう一度夜空を見上げる。
眞魔国にいるヴォルフも空、見てるかな?

「渋谷らしくないよね、そんな顔」
「え、俺変な顔してた?」
「うん、すっごいリア充してますって感じ」
「りあ、じゅ……?」
「えーっと、恋焦がれてる感じ」

どういう顔だよ、って眉を潜めると楽しそうに村田は笑う。

「今日は雲一つなかったからほんと、綺麗な星空だね」
「流れ星こねーかな」

と、夜空を見渡すと村田は悪戯っぽく言った。

「流星を見たら3回唾を吐かなければ不幸になるんだよ」
「え、消えちゃう前に願い事を3回唱えるとその願いが叶うんじゃないの?」

そう一般論で返すと、村田はちっちっちと舌を鳴らした。
ついでにちょっとむかつく指までつけて。

「日本ではそれが主流だろ?当然ながら明確な根拠は無いんだよ」
「は、はあ……」

突然村田のスイッチが入ったらしく、うんちくがはじまってしまった。

「流星が発生するタイミングは確実に掴めるものじゃないだろ?しかも、流星1つが発光している時間は、通常1秒前後の非常に短い間ときた。その間に3回も願い事を唱えるのは不可能に近いから……」

いつまで続くのやら。
生憎そんな夢のない話には興味がないので、適当に話を終了させるとするか。

「はいはい!わかったわかった!!っとにお前は夢がねーな。じゃあその二つを合わせて、気合と根性でお願いしたら唾はこうぜっ……あ!!!」

その瞬間夜空にきらりと流れるものが走った。

「む、村田!これもしかして……」
「流れ星だねぇー。まさか本当に、しかも渋谷んちのベランダで見られるとは」
「俺んちのベランダで悪かったね……あっ」

もう一度きらりと光が駆ける。
しかし一瞬過ぎて、言葉に詰まった。
二度見れただけでも奇跡なのに、三度目があるとは思えないけど、あと一度チャンスがあるとすれば。

「………ヴォルフとずっと笑っていられますように」


そうつぶやいた瞬間、また一つ、願いが届いたように。
星が一つ駆けだした。


なあ、ヴォルフ。
待っててくれよ。
ちゃんとお前にふさわしい主になれるかわからないけど。
いつか、お前の全てを俺に……。





+++





「ユーリ……」

僕は窓辺に頬杖をつく。
会えない時間が長すぎて時々凄く泣きそうになってしまうけれど。
僕がこんなことではいけない。

「ヴォルフ、どうしたの?」

グレタが心配そうに僕を見上げる。
何でもないと僕は大事な愛娘に心配をかけぬよう、微笑んだ。
しかし、察しの良い子だから、グレタには全てお見通しのような気がする。
本当にユーリに似た、心の優しい子である。
グレタはそれ以上追求せずに、僕の横に並んで空を見上げた。

「星、綺麗だね」
「ああ」

今日は快晴だったからな、と僕も窓の外を見つめる。

「ねえ、知ってる?流れ星にね、お願い事を3回唱えると、それが叶うんだって!地球の言い伝えだってユーリが教えてくれた!素敵だよね」

地球には随分変わった風習があるんだな。
ロマンチックではあるが、流星が流れている間に、願いを三度など不可能に思えてしまう。

しかし、

もし叶うのならば。

ユーリとこれからもずっと、一緒にいられますように。

僕は心の中でそっと三回唱えた。

「あっ」

その次の瞬間、この願いが届いたように。
星が一つ駆けだした。


なあ、ユーリ。
僕はお前のもうひとつの居場所の大切さをよく知っている。
だからこそ、お前をここで待っているよ。

だから、ちゃんと帰ってこい。
一国の主として、眞魔国中の民の為に。
そして、たったひとりの婚約者の為に。







+++


この願いを、夜空に込めて君に届けよう。
この思いを、流星に乗せて君に届けよう。

もし眞魔国と地球の空が繋がっているとしたら。
俺達はどんなに離れていても一緒にいられる気がする。


明日も、明後日も、しあさっても。
遠い場所で君を思うよ。



君に逢えたとき、ちゃんと笑えるように。





end


 
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