ある晴れた日の痴話喧嘩



結婚したからといって、何か変わったわけじゃない。
……ていうか、むしろそのままだった。
俺は相変わらずのへなちょこで、痴話喧嘩も日常茶飯事。
ただひとつ変わったことと言えば、最近ヴォルフラムの様子が変だということだ。


―――

「ユーリ!僕のことをどう思っている?」

突然、ヴォルフラムがこんなことを質問してきた。
なぜか瞳をキラキラ輝かせている。

「え?あっ、うーん……」

俺は口ごもる。
ヴォルフラムに出会うまでは彼女居ない歴年齢だった俺はこういった場合、なんて答えればいいのかわからない。
好きだよ……とか?
いや、でも俺達結婚してるし……。
じゃあ、愛してる?
無理無理無理!
確かにヴォルフラムのことは、あ、愛してるけど!
俺はコンラッドとは違ってキザなセリフを吐けるようなキャラではないし、照れ臭くてそんな言葉とても口になんて出せない。

「何もないのか?」
「って言われても……別に……」

「別に」なんて、そんな曖昧な反応をしようものなら、目の前の美少年がどんな反応をするかなんて明白だった。
案の定、ヴォルフラムは怒りで拳を震わせている。

「な、何もないだと……?ユーリは僕のことをなんとも思っていない、ということだな?」

震わせた拳から湯気が出そうな勢いである。
まあ、彼は本当に火が出せるんだけども。

「いや、違う、違うよヴォルフ。そういう意味じゃなくて」

必死の言い訳も虚しく、ヴォルフラムは聞く耳を一切持つことはなかった。
そして。

「もういい!そこまで言うなら実家に帰らせてもらう!!」

想像もしなかったような、とんでもないことを言い放ったのである。

「はあ?!実家に帰るって……ってえっ?!ていうかそんな言葉いつ誰に教えてもらったの?!」

なんだか話が飛躍しすぎてる気がする。
突っ込みどころ満載で、何処から突っ込んでいいかわからないんですけどっ!

「この前地球に行ったとき、ジェニファー母上に教えて頂いたんだ!!旦那に愛想を尽かしたときに使う言葉なんだってな!」
「いや、それは微妙に違うような…。ていうか!やっぱおふくろの入れ知恵かよ!!」

俺はヴォルフラムに余計なことばかり教えやがって、と溜息をつく。
すると、また何か勘違いしたヴォルフは目に涙を溜めた。
しまった、と思ったときにはもう時既に遅し。

「止めもしてくれないのか?!このへなちょこっ!もういい!ユーリなんて大嫌いだ!」
「違う!違うから!待てよヴォルフラム!!!」
「ふんっ!」

そう言うとヴォルフは部屋を出ていってしまった。
バタン!と扉の閉まる音が部屋中に響き渡る。
展開が早すぎて何がなんだか当事者の俺にも全然わからない。

「あーもう、なんだよ。一体……」

俺がその場に立ちすくんでいると、入れ違いで愛娘のグレタがやってきた。

「ユーリとヴォルフ、また痴話喧嘩したの?」

グレタは不安げにこちらを見つめる。俺は出来るだけ心配をかけないように必死に言葉を選んだけど、いい言葉が見つからなくて結局頷くことしかできなかった。

「ヴォルフラム泣いてたよ。追い掛けないの?」
「追いかけるもなにも悪いのはアイツで……」
「いいの?ヴォルフラム、コンラッドと一緒にいたよ」
「………え?」

その名前に反応した俺は思わず聞き返す。

「だから、ヴォルフラム、コンラッドと一緒にいたんだよ」

想定外だった。
あの他の早い次男に近づけたらヴォルフラムの身が危ない!
そんなのなんとしてでも連れて帰らないと!
俺はグレタに礼を言うと、すぐさまコンラッドの自室にかけだした。


―――

「おい!!」

部屋の主のコンラッドの許可も聞かず、俺はドアを思いっきり開いた。
想定の範囲内とでも言うように、コンラッドは人のよさそうな笑顔を見せる。
ヴォルフはというと、コンラッドの後ろに隠れたまま動こうとしない。

「ちょっと待てよ!ヴォルフラム、俺はっ」
「……俺は、なんだ?」
「俺は……ああもう!!なんでもない!!早く帰るぞ!」」

最後の言葉が詰まってしまい、上手く言えない。
そんな俺を見兼ねたのかコンラッドが諭すように言った。

「ヴォルフラムはただユーリからの愛の言葉が欲しかったみたいなんです」
「は?」

あ、愛の言葉?
俺は思わず固まる。

一方のヴォルフラムは顔をまっかに染めてからコンラッドを睨むと小さく頷いてから涙でかすれた声で言った。

「大賢者が言っていたんだ。愛してるは好き以上に深い言葉だって。愛の証だって!!だから、僕は何度もユーリに言った!愛しているって。でもユーリは全然言ってくれない!僕を愛していないんだ……。僕をなんとも思ってないのに、結婚だって僕へのお情けで……」

俺はその言葉を最後まで聞くよりも早く、ヴォルフラムを抱きしめていた。

「ユーリ……!何をしてっ」

突然のことに、ヴォルフラムは動揺を隠せないらしい。
目を大きく見開くと口をパクパクさせている。
だけど、俺はヴォルフラムを抱きしめたまま続けた。

「ごめんな、ヴォルフラム。俺全然お前の気持ち考えてなくて……。ただ照れ臭かっただけなんだ!」

そう言うと俺はもっと力を込めて抱きしめる。
すると、ヴォルフラムは不安そうな声で聞いてきた。

「………じゃあ、ユーリは僕のことを愛しているんだな?」
「あたりまえだろっ!」

俺がそう答えるとヴォルフラムは安心したように微笑んだ。
そんな笑顔が眩しくて、愛しくて、俺はヴォルフラムのおでこにそっとキスをおとす。

「な、ななユーリ?!」

案の定、ヴォルフの顔は真っ赤で。
俺は思わず顔が緩む。

「ヴォルフラム愛してるよ」
さっきまで照れ臭かったなんて嘘みたいだ。
今なら何度でも言えそうな気がする。

「愛してる」

だから、これにて一件落着だったハズなのに。
ヴォルフラムは黙りこんでしまった。

「あのー、ヴォルフラムさん?」

なんだか不安になってきた俺は、へなちょこながらに様子を伺う。
すると、顔を真っ赤に染めたヴォルフラムが俯いたまま小さな声で言った。

「僕も……からなっ!」
「え?」
「だからっ!ユーリ、僕も愛してるからなっ」

ヴォルフはそういうとそっぽを向く。
そんなの反則だ。

「ああもう!我慢できるわけねーじゃん!ヴォルフ!朝だけど押し倒していいですか!?」
「ちょ、まて!や、やめろっ!!」

……必死の抵抗は今の俺にとっては逆効果で。
俺はヴォルフラムに触れるだけのキスをする。
優しいキスから深いキスへ。
唇から伝う体温が心地よかった。

「ゆ、ユーリやめっ」

嫌がる顔が妙に色っぽくて。
性別が同じであることが信じられない。
最初は抵抗していたヴォルフラムも最後は必死に応えてくれた。
しばらくヴォルフラムとのキスを堪能していると、後ろの方からすっかり存在を忘れられていた名付け親の申し訳なさそうな声が聞こえてきた。

「……えーっと、お二人は既に結婚していますし、朝の運動会にも決して反対はしないんですが…。その、こういう事は出来れば、俺の部屋の外でお願いしたいなあと……」






その瞬間、燃え上がっていた2人の空気は一気に凍ったのだった。





―――




「と、時と場所を考えろ!ああもうっ」

自室に戻ると、ヴォルフラムは顔を真っ赤に染めたまま、ベッドに潜り込む。

「ごめん、ごめんて」

文句を言いつつも、俺の寝転がれるだけのスペースをあけてくれるところを見ると、本気で怒っている訳ではないらしかった。
俺もそっと隣に寝転ぶ。

ヴォルフラムをぎゅっと抱きしめてこう言った。

「なあヴォルフラム?」
「ぐああああっ!!なんじゃりっ?!!」
「……俺達、運命共同体だよな?」

昔、ヴォルフラムに言った、あの言葉。
あの時は、無意識に放った言葉だったけれど。
もうあとは少し意味合いが違う。
少し、緊張した面持ちで、ヴォルフラムを見つめると、驚いたような顔をした。
そして、ニッと微笑むと嬉しそうにこう答えた。

「ユーリはやっぱり、へなちょこだな。そんなの、あたりまえだ!僕たちは運命共同体なんだ。だからこの先も、ずっとずっと一緒だ」




これは、ある晴れた日の痴話喧嘩のお話。



end

 
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