片思い
ヴォルフラムがユーリに片思いしてます
……
ユーリと僕の好きは違う。
ユーリは僕のことを好きだと言うけど、コンラートのことも好きだと言うし、グヴェンダル兄上のことも同じように好きだと言う。
確かに僕も、グヴェンダル兄上は憧れるし、好きだ。
悔しいが、コンラートも嫌いではない。
けれど、ユーリは違うんだ
同じ好きでも、ちょっと特別で。
城の中ばかりにいた僕が、はじめてしったドキドキをたくさんくれる。
あの求婚は、ユーリの意志ではない。
だから、我が儘なこともわかっている。
けれど、どうしてもユーリにも同じような好きを求めてしまう。
仮にも僕はお前の婚約者だろう?
お願い。
少しでも良いから、僕を、僕がお前を思うのと同じように思って欲しいんだ。
***
「コンラッド〜!キャッチボールしようぜ!」
執務が終わるなり、お前はすぐにコンラートの所へ行ってしまう。
……傍でずっと待っていてやった僕のことなど、気にも止めずに。
やっぱりユーリは僕よりもコンラートの方が好きなのかもしれない。
……だいたい、婚約だってユーリは間違いだって言い張っている。
結局は、僕の片思いなのか。
そう思うと、心が酷く沈んだ。
「……あれぇ?ヴォルフラム〜!そんなとこで何やってんの?」
「……なッ!」
何って……。
お前を待っていたんだ。
そう言いたかったけど、なんだか、楽しそうにやきゅうとやらをする用意をしているユーリを前にしてはやっぱり言えなかった。
「……なんでもない」
ああ。
これじゃあ僕の方がへなちょこじゃないか。
僕は、深くため息をついた。
そんな僕を不審に思ったのかユーリは首を傾げてから、しばらく考え込む。
そしてなにか思いついたのか、楽しそうに手をポンっと鳴らした。
「………あ、そうだ!」
「?」
「ねぇ、今からなんか用事ある?」
「用事も何も―…」
予定があったらそもそも最初からお前を待っているなんて暇な事していないと、心の中で言い返した。
「ない……が」
「じゃあ決まりな!今からさ、コンラッドとキャッチボールするんだけど、ヴォルフもやらない?」
「なっ?!」
何を言い出すのかと思えば、ユーリの返事は僕の斜め上を行くものだった。
「…あ、もしかして嫌?」
「いっ嫌じゃない!…でも、僕がいると――」
邪魔なんじゃないのか?
「はぁ?なに言ってんだよ?俺、お前がいた方が楽しいっつーの!」
「ユーリ……」
「ほらっ!いこーぜ!!」
そう言って、さりげなく出された手を僕はしばらく無言で見つめる。
するとユーリは「ほら早くっ!」と僕をせかした。
別にこれぐらい、ユーリにとって深い意味は無いのかもしれない。
だけど僕にとってはすごく特別なことに思えた。
「あ、あの―」
「…もう!!行くぞっ!!」
そう言ってユーリは僕の手をぎゅっと握って駆け出した。握られた手が熱くて、僕はそっとそれを握り返す。
こんな小さなことでも嬉しくなってしまうから、ぼくはつくづく単純だ。
「大好きだ、ユーリ」
「な、なんだよ。急に改まって。……えっと、俺も!し、信頼してるからな!」
今はこのままでもいい。
でもいつか、いつかきっと。
お前の中の1番が僕になったらいいなって、そう思うんだ。
……
キャッチボールにヴォルフラムを誘ったのはいいものの、俺は無性にイライラしていた。
「で、ここのフォームは…ああそう。いい感じ」
「そ、そうか?!まっ、まぁ僕ならばこれぐらい出来て当然だっ!」
「はいはい。わかったわかった。そうしたらもう一球いってみようか」
コンラッドのやつ、ここぞとばかりにヴォルフラムにベタベタベタベタしやがって!と、心の中で叫ぶ。
いやいや、兄弟が円満な関係なのは良きことなんだけれども。
それでも、なんか、とても面白くない。
というかそもそもなんでイライラしてるのかは自分でもよくわからない。
俺が仲間外れにされてるみたいか感覚なのかなぁ。それはそれでピンとこないけど。
「ユーリ?どうしたんだ」
「こっちで一緒にやりましょう?陛下」
なんだろ。
なんか……。
コンラッドに言われるとムカツクってゆうか。
散々見せ付けられた上に、このイライラを知っていてのあの笑顔はないだろ。
つーかヴォルフラムもヴォルフラムだよ!!
なんでコンラッドとばっかさぁ〜……。
……………は?
「それってまるで……」
「どうした!早く来い!このへなちょこっ」
「………俺が……」
俺が、ヴォルフを好きみたいじゃんか……。
いやいやいや。
そんなことがあるわけない。
あってたまるか。
第一、俺等男同士じゃん!!
「陛下はお疲れみたいだから、ヴォルフ、もう一回二人でやろうか」
「あ、ああ!」
「さっさせるかぁぁぁ!!」
この感情がなんなのか、今はまだ分かんないけど。
なんか、コンラッドには……。
つーかコンラッドだけには……。
「ぜってぇわたさねえ!!!」
名付け親vs魔王陛下。
end
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