HAPPYBIRTHDAY



今日は魔王陛下の生誕祭。
前日も準備に大忙しだったが、当日は他国からの来客者も多く、眞魔国全体がお祭りムードで一層騒がしかった。
ギュンターに至っては張り切り過ぎて、かつての若さと本来の風格まで取り戻している。

「あ、わりぃヴォルフ俺ちょっと抜けなきゃ」
「僕のことは気にするな。今日は眞魔国の王の誕生祭なのだから主役のお前を皆待っている。早く行け」


けれど、タイミングがなかなか掴めなくて僕はもどかしくなる。
ああもう!!
早く、早くしないと今日が終わってしまうじゃないか!

何度もタイミングを見計らっては声をかけてみたものの、そう上手くはいかず、刻々と時間は過ぎていく。

そしてとうとう日付が変わるまであと10分というところまできてしまった。

「ユーリのあほ…」

言葉にするとなんだか余計に寂しくなってて僕は、一人テラスにでると、思いっきり叫んだ。

「ユーリのへなちょこ!!!」
「誰がへなちょこだって?」

この声は、僕の一番大好きな人の声。

「ユーリ?!」

なんで此処に?主役が抜け出していいのか?とか聞きたいことは山ほどあるけれど、嬉しさが勝ってしまい、言葉に詰まる。

「やっと抜けられたんだ。ごめんな?寂しい思いさせて……」
「い、いや!別に!僕は全然寂しくなんか…」

本当は嘘だけど、ちょっとだけ強がってみせる。
するとユーリは僕に近づいてきて、優しく微笑んで言った。

「あと誕生日、あとちょっとしかないけど、俺の傍にいて欲しいんだ。ダメかな?」
「ユーリ…」

照れたようにはにかむユーリが、あまりにも愛しくて、胸に思いが込み上げてくる。
ユーリはどうしていつも僕の望む言葉をくれるのだろうか。

「あ、あたりまえだろ!このへなちょこ…」

僕ももっと素直になれればいいんだけど、それが出来ないから困る。
そんな僕をユーリは優しく包みこんだ。

「やりぃっ」
「くっくっつくな!!」
「嫌?」
「い、嫌ではない…」

僕の気持ちなど、確認せずとも、本当は分かっているくせに。

「なあなあ、キスしていい?」
「そ、そんなこといちいち僕に聞くな!」

いいに決まっている。
ユーリは時々性格が悪い。
僕の照れる姿を面白がっているんだ。

「じゃ、お言葉に甘えて…」

そう言うとユーリは僕の唇を塞いだ。
最初は優しかったキスも、次第に激しく情熱的なものになっていく。
しばらく接吻を交わしているうちに、寂しさも、怒りも全部なくなっていた。

「ユーリはずるい」

僕はユーリをそっと離すと、睨み付ける。
そんな僕をユーリは少し戸惑ったように見つめた。

「ご、ごめっ!苦しかった?」
「ちょっとな」
「ううっ…!ごめん…。なんかヴォルフ見てたらその…可愛すぎて理性ぶっ飛んじゃった…」

またどうしてそういうことを言うんだ?

「やっぱりずるい」
「ホントごめん!!」
「…ったく。どれだけ…」

どれだけ僕を喜ばせれば気が済むんだろう。
ユーリの一言に喜んで、ユーリの一言に悲しくなる。

「ユーリのバカもう知らない」
「ちょ、ちょっとまってヴォルフ!」
「まーたーなーいー」



今日はこんなにドキドキさせられたんだ。
明日は僕がお前をドキドキさせてやる。
覚悟しとけよ、ユーリ。

それと…、地球ではこういうんだったな。

「はっぴーばーすでー、ユーリ」



end
 
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