幸せな時間を



「この浮気ものっ」

僕はその場に落ちていた、枕を投げつける。
するとユーリは驚いたようにこちらに目を向けた。

「は?!俺がいつ―…」

しらばっくれても無駄だぞ!
目撃者(グレタ)もいるんだからなっ!

「お前は僕との約束より、大賢者との約束の方が大事なのか?!」
「んなわけないだろ!!」
「でもっ!お前はこの前、用事があるからと言って僕との約束を断った!その用事をお前は期末試験の勉強だと言うから僕は我慢したのに、猊下とよろしくやっていたそうじゃないか!!!」
「よろしくって…。あれは、事情があって…」
「嘘をつくな!!」

ユーリがこの後に及んで言い訳しようとするものだから、僕の怒りはヒートアップしていく。

「ホントだって!!」

「言い訳なんか聞きたくないっ!お前はお前を信じていたんだ!!…猊下といたことよりも、嘘をつかれたことが…悔しい…」

なんだか涙が出てきそうになる。
自分ばかりがユーリを好きな気がする。
泣いてしまったら負けてな気がして、僕はどうにか堪えようと目を伏せた。
僕が黙り込むと、ユーリは「しょうがないか」とポケットから何かを取り出した。

「……なんだ、これは?」

誰かへのプレゼント…にしては不格好なラッピングだ。
僕は首を傾げる。
するとユーリは僕の手のひらを掴むと、それを乗せた。

「これ、ヴォルフラムに」

そういってユーリは恥ずかしそうに笑う。

「これを、僕に…?」

ユーリからの贈り物ははじめてだったので、驚いてしまって、言葉が出てこない。
さっきまでの怒りはどこへやら、僕は身体中から嬉しさが込み上げてきた。
我ながら単純すぎて嫌になる。

「ユーリっ…!」

今すぐにでも抱きつきたくなる衝動をどうにか堪えた。

「あけて?」
「わ、わかった!!」

僕は不器用に結ばれたリボンを解く。
中には小さな石が入っていた。

「それ、地球で村田と海の家でアルバイトしたときに偶然拾ってさ。綺麗だろ?」

青い、キラキラした石を僕はじっと見つめる。
透き通ってはいなけれど、淡い緑色がすごく綺麗で、僕は言葉を失った。

「これ、もらってもいいのか?」

僕がそう問うと、ユーリはまたポケットに手を突っ込んで何かを探る。

「あ、ちょっと待って!…っと、あった!」
「?」

そう言うとユーリは僕の手のひらに乗っていた石の上の方にあった小さな穴に鎖を通す。
そして、それを僕の首にかけた。

「これ、村田に教えてもらいながら作ってみたんだ…。よっと…、ん!ぴったり」

ユーリは満足げに頷く。
へなちょこのくせに、へなちょこのくせに!
なんでこうやって僕を喜ばせる術を知っているのだろうか。

「ごめん、不安にさせた。どうしてもサプライズがしたくてさ。お前に内緒で準備したかったんだ」

全然、怒ってないのに。
嬉しいのに。
涙が出てきてしまって、何も言えない。

「喜ばせたかったのに、むしろ傷つけて、泣かししちゃったし、俺ホントダメダメだな…」

ユーリは僕が泣いている理由がわからずおろおろしている。
捨てられた子犬のような瞳が妙に愛らしくて僕は思わず笑ってしまった。

「ヴォルフラム……?」

ユーリは泣いたり笑ったりしてる僕を不思議そうに見つめている。
僕はつくづくコイツには敵わない。

「好きだ!ユーリっ!!」
「ちょ!どうしたんだよっ!急に!」
「…どうしたもこうしたもない!とにかく僕はお前が好きなんだっ!」
「そんなこと、言われなくても…し、しってるしっ」

ユーリは照れたようにそっぽを向いてしまう。
胸が張り裂けそうなくらい愛しくて。
だから、僕はもう一度言う。

「大好きだ!」

するとユーリは笑いながら答えた。

「俺だって、負けないぐらいヴォルフのこと好きだし!」
「なっ、僕の方が好きに決まってる!」
「いーや!俺の方が好きに決まってるからな!」

我ながら不毛な言い争いだと思う。
でも、それがすごく幸せなことだということを僕は知っている。
ユーリはこんなにも僕のことを大事にしてくれているというのに、さっきまで怒っていた自分が恥ずかしくて堪らなくなった。

「ユーリ、その、さっきら浮気者って疑って、すまなかった…」
「もう慣れてるからいーよ。それに今回は嘘をついた俺にも非があったんだからおあいこってことで! 」

そう言ってユーリは僕の頭をくしゃりと撫でる。
やっぱり好きだ、と思った。

「ユーリ…」
「それにさ。実は、お前た浮気者って言われるの愛されてるなあって思えるから、案外嬉しいんだよね」

ユーリは僕をどれだけ喜ばせれば気がすむんだ。
照れたようにそっぽを向くユーリが堪らなく愛しくて胸が張り裂けそうになる。

「ありがとう。これ大切にする」

僕は、ユーリに貰った首飾りをギュッと握り締める。
すると僕が素直にお礼を言ったことに驚いたのか、ユーリは少し目を見開いた後、あんまりにも嬉しそうに笑うので、なんだか僕まで嬉しくなってしまった。

ユーリは優しくて、強くて、僕にはもったいない人だ。でも、そばに居たいのだ。
この愛おしい時間を、こんなにも僕を大事に思ってくれる婚約者を大切にしていきたいと思った。
もちろん、ユーリから貰った首飾りもな!

end*



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補足、
これ、ユーリ普通に渡してたけどさ。
石に穴をあけたり、結構大変だよねこれ。
一応石っていうのは海に落ちてるきれいなガラスのこと!
(波で周りが削れて整ったやつ) 
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