今日の午後は、君と。



家から出たくない。
渋谷有利は、心の底から思った。

今日は地球に遊びに来たヴォルフラムと、有利な渋谷でもなく、不利な原宿でもなく、池袋デートの日。
俺はこの日の為に、事前にあれこれ調べて、サンシャイン水族館&プラネタリウムというベタだけど、間違いはないであろうプランを密かに計画していた。

数分前まではウキウキそわそわしていた。
楽しみだったのだ。物凄く。
だが、事態は大きく変わった。
今はどうしても家から出たくない。
いや、出るわけにはいかなかった。

「どうだ?ユーリっ!似合うか?」
「ど、どうと言われましても……」

似合うも何も、可愛いすぎて声もでない。
なんだこの天使は。

「ジェニファー母上に着させていただいたんだっ」

そう言ってヴォルフラムはくるりと回る。
やっぱりお袋の仕業か……。
俺は、深い溜息をついた。

「に、似合わないか?」

しかし、そんな俺の反応を見て、不安に感じたであろうヴォルフラムは不安げにこちらを見つめてきた。
それは子犬にも勝る可愛さで。

「すっげぇ似合ってるよ!ヴォルフラムっ!めちゃ可愛い!!」

真っ昼間から押し倒したくなるくらい。
なんとか最後の言葉を飲みこむと、俺はもう一度ヴォルフラムを見つめた。
ふわふわのショートパンツに水色のカーディガン。
どこからどうみても女の子にしか見えない。

「ば、バカっ!か、可愛いのはお前の方だろうっ」

そんなこと、そんな格好で言われても全然説得力ないって。
魔族の皆様の美的感覚は酷くずれているものだから困る。

「お前の方が全然可愛いよ」

俺なんかより、ずっと。
そう言って俺が頭を撫でてやると、ヴォルフラムは恥かしそうに「あっ頭をポンポンするなっ!へなちょこめ」と頬を膨らませた。
だけど言葉とは裏腹に、実際はあまり嫌そうじゃない。
これはきっと多分照れ隠しなのだろう。
そう気づけるようになってから、このツンデレが可愛くて可愛くて仕方がないのだ。

「ああもう!」
「ど、どうした?」
「何でそんな格好で来たんだよ!そんな服装のヴォルフラムと出かけたくない!!」

自分で言っておいてアレだけど、なんて幼稚な主張んだ。

「なんだと!?せっかくジェニファー母上が選んで下さったんだ!僕に似合わないとしても、僕はこの格好で出かけるからな!」
「そんな可愛いお前を、誰にも見せたくないからに決まってんだろ!」

勢いだけで叫んで、突然我に返る。
俺なに言っちゃってんの、あーー。

「……なんちゃって…?」

今更遅い!死にたい!
いざ言葉にすると恥ずかしい!
俺は羞恥のあまり、頭を抱えてその場にうずくまる。
なんだよ、
するとヴォルフラムは嬉しそうに笑って、「本当に我が儘だな、ユーリは!」と俺に思いっきり抱きついてきた。

やっぱり…。
この可愛さ、健全な高校生には毒だよな。

「なんだ、その手は!抱き返すなら抱き返せっ!!ったく!お前はへなちょこだなっ」

「へっへなちょこゆーなっ」

…だって、だってさ?
抱きつき返したら、り、理性が持たないっつーか…。
俺なりに努力してるんだよっ!
それでも俺が迷っていると、ヴォルフは上目遣いで、俺を見つめてくる。
―…これで、無自覚だから恐ろしいんだ!
耐えろ、俺!
耐え……。
……。

「…ああもうっ!すんませんっ!我慢の限界っ」
「ぬわあああ!お、押し倒すな!」

ヴォルフは必死に抵抗してくるけど…。
嫌がられるほど、逆にそそるっつーかさ〜♪

「ねぇ、デートはまた明日にしてさっ!!今日は、やっぱ家にいようよ〜!」
「なっ何する気だ!!」

健全な男女が(あれ?でもヴォルフは男か)部屋で2人きりですることって言ったら、そりゃぁナニでしょう〜?

「や、やめろっ!!こんのへなちょこ!!!…それに……」
「?」
「それに、そんなに心配しなくても、僕はお前のモノだから…何処にも、行ったりしない」

そう言うとヴォルフは恥かしそうに俺にそっと寄り添って来た。
ああもう!
なんでそんなに可愛いこと言ってくれちゃう訳?!

「ばーか!!あたりまえだろっ」



こんな可愛い婚約者を、これからも、離すわけがないって!
だって、お前は世界で一番大事な婚約者なんだから。

end
 
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