演劇フェスティバル!



【観覧注意】モバテニのイベント、演劇フェスティバルを元に、大幅捏造してます。






季節はもう夏になろうとしている。
U-17では市が主催している演劇フェスティバルの練習で騒がしかった。
演劇フェスティバルでは織姫と彦星のお話をやるのだが、主役の彦星は演技力が一番高く評価されたU-17の中から選ばれるという。
こういったイベントごとに興味がなさそうな日吉も、鳳に『下剋上のチャンスだね!』と言われたことをきっかけに突然人が変わったかのように練習に励んでいた。

「ああ、なんて素敵な家なんだろう。これはお菓子の家だ」

日吉の演技にはイマイチ気持ちが入っておらず、お世辞にも上手とは言えない。
そんな日吉の様子を跡部はベンチに腰掛けながらずっと眺めていた。

「なぁ、若。そんなお菓子の家を睨みつけてどうするんだ…」

日吉は元々目つきが悪いせいか、思うように演技ができないでいた。

「ぐっ…!べ、別に睨みつけていません」
「睨んでるだろ。まあお前に笑えっていう方が酷なのかもしれないが…」
「ああもう!俺の練習見ないでください!!どっか消えてください!!俺の視界に入らないでください!!!」

跡部に指摘されたことが悔しく、日吉は跡部を睨みつけた。
そんな日吉に対し、跡部は何を思いついたのか意味深に微笑む。
そして「俺が読み合せ手伝ってやろうか」と提案してきたのである。

「は!?なに言ってるんですか。冗談はやめてください」

なぜそうなるのか意味が分からない。
怪訝そうに日吉は跡部を見つめた。

「冗談じゃねえよ。俺様が直々に指導してやるって言ってるんだ」
「結構です」

まあ、常にポジティブな跡部も、日吉が申し出を断るのは容易に想像がついた。
跡部はやれやれとため息をつくと、目を細めてこう言った。

「下剋上のチャンスだろ?」
「は?」
「俺様から彦星の座を奪い取れ」
「いやいや。待ってください。何が悲しくて下剋上したい相手から情けをかけられなきゃならないんです」

日吉は困ったように眉を潜める。

「今のままだと、下剋上どころか予選落ちだぜ?」
「な!?」
「どうする若。チャンスを生かすも殺すもお前次第だ」

跡部は日吉の扱いに慣れていた。
日吉は少し迷ったあと何かを諦めたかのようにため息を漏らした。

「わかりました。いいですよ。やります」
「あーん?それが人にものを頼む態度か」

跡部はニヤリと微笑んだ。
悔しい。
日吉は仕方なしに頭を下げた。

「跡部さん。ヘンゼルとグレーテルの読み合わせに付き合ってくれませんか」







+++




「なんで俺がグレーテルのセリフなんです」
「当たり前だろ。俺様のヘンゼルの演技を見て、それを吸収しろ」

流石跡部さんだな。
自分には考えつかないような指導方法だと日吉は感心した。

「わかりました!」


跡部の演技の指導は思いのほか役に立ち、目つきは変わらないが、棒読みは多少解消した。

「……まあこんなもんだろ」
「はい。あの、ありがとうございます」

日吉も今なら、素直にお礼を言えた。

「じゃあ、最後のところ、通しでいくぞ?」
「はい……ん?」

練習に夢中だったせいで、日吉は今の今まで気がつかなかった。
一冊の台本を二人でのぞき込んでいるのだ。
距離が近い、というか近すぎる。
自分の気にしすぎだろうか。

「どうした?」
「あ、あの。なんでもないです!」

ダメだ。
悔しいけど、近くで見ると本当にかっこいい。
あまりにも顔が整いすぎていた。
日吉は急に恥ずかしくなり、耐えきれず、視線を逸らした。

「あーん?なるほど。俺に見惚れたか」

跡部はニヤリと微笑む。
そして日吉を引き寄せる。

「や、やめてください!」
「こっち向け、若」
「……嫌です」

日吉は耳元で囁かれ、余計に心臓が高鳴るのを感じた。

「だ、駄目ですって……んぅっ」

突然唇を塞がれて日吉は目を見開いた。
抗議をしようとも、跡部は開放してくれず、もうされるがままになっている。


「んぁっはぁ……」

最初はキスのとき、口を開けることができなかった日吉も、今では跡部のキスに応じられるくらいにはなっていた。
跡部は自分色に染まっていく日吉を満足気に見つめていた。

「あんたって人は…」

長いキスをやっと終え、日吉はやっと跡部から開放された。
真っ赤な顔で跡部を睨みつけると、跡部は愉快そうにのどを鳴らして笑った。

「演劇フェスティバル、楽しみだな」
「突然なんですか」

相変わらず唐突な人だな、と日吉は思う。

「俺様が直々に指導してやったんだ。この調子でいけば、きっとメインキャストに選ばれるだろ。俺様が保証する」

そう言うと跡部は日吉のサラサラな髪をくしゃっと撫でた。
跡部が自分を誉めてくれたことが嬉しくて、柄にもなく顔が緩みそうになる。下唇を噛んで、なんとか堪えた。

「頑張れよ、若」
「はい……!」

あの跡部が自分に期待してくれている、と思うと胸が熱くなる。
練習に付き合ってくれた跡部のためにも、絶対に主役の座を勝ち取ろうと、日吉は心に誓った。



+++

数日後、日吉は跡部との特訓の甲斐もあり、無事メインキャストに抜擢された。

そこまでは良いのだが……。

「なんで……なんでアンタが!彦星なんですか?!」
「アーン?俺様がメインキャストに抜擢されないわけないだろ」
「アンタが演劇フェスティバルのオーディションを受けているなんて聞いてないし、俺が織姫なんてありえないです!!!」

なんと、跡部が彦星で日吉が織姫という配役になってしまったのである。

「俺が彦星やります!アンタが織姫やってください!」
「俺様が彦星以外ありえねえだろ。それにこれは全体で決めたことだから、俺様の独断と偏見では変更できねぇな?アーン?」

跡部はニヤリと微笑む。
どうやら全て計算済みだったらしい。
常に自分を中心に世界を動かしてるような人が白々しい!と日吉は心の中で叫んだ。

「と、とにかく!織姫なんて絶対嫌です……!」

恥ずかしくて死んでしまう。
「降ります!」と日吉が叫ぶと跡部は日吉の手を掴み、その甲にそっと口付けた。

「俺様の織姫は若以外あり得ねえ」

急に真面目な声色になるものだから、日吉はついドキリとしてしまう。

「なっ」
「俺様の隣にふさわしいのは若だけだって言ってるんだよ」

「そうだろ?」と跡部は笑った。

アンタはずるい。そんな風に言われてしまったら、断れるはずないじゃないか。

「当たり前じゃないですか……」

自分はつくづく跡部に弱い。
このままでは下剋上なんて、できるはずがない。

「若の織姫、楽しみにしてるぜ」

だけど……楽しそうに笑う跡部を見ていたら、そんな自分も悪くないと思えるのだった。



end

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