教室の真ん中で



なんの代わり映えもしない廊下を、あなたが歩くだけで。
全てのものの視線が、あなたの物となる。


あなたに。
下剋上を決めたあの日から俺は――……。




+++





「……よし……日吉!」
「わ、わりぃ」

ついボーッとしてしまった。
俺は慌てて視線をクラスメイトに移す。

「日吉ってさー跡部さんのこといつも見てるよな」
「な、なに言ってんだ!そ、そんなことはっ!」


……ないと、思う。
だけどそんな一言に俺は、正直動揺していた。


「そうかなー?だってさっき跡部さんと廊下ですれ違ったときも……」
「ちちちがう!あ、あれはあの人が!!!」


ああもう。
なにを動揺している。
恋仲でもあるまい、言い訳する必要なんかないのに。



「はいはい、わかったわかった!っと、噂をすれば跡部さんじゃん」
「え?!」


自分でも驚くぐらい大きく心臓が鳴った。
跡部さんの姿を捉えると、俺の心臓はより一層加速していく。
どうしたんだ、俺。


「うわー、女子に囲まれてるよ」
「いつものことだがな」


毎日毎日よくも飽きずに。
跡部さんはお前らなんか興味ないんだよ。
跡部さんは……って俺が気にすることでもないか。
っていうか跡部さんも跡部さんだ。
2年生の教室周辺なんかうろついてないで……。


「よう?若」

な、なんでこっちに向かって歩いて……。
なんで俺の教室に。どうして俺の目の前に。女子の視線が。
色々言いたいことはあったけど息が、苦しくて言葉に詰まる。
心拍数が速すぎてなんかもう、吐きそう。


「あと……べさん」


ようやく発せた言葉。
跡部さんは「ん」と笑うと俺の頭をぐしゃっと撫でた。
この笑顔に俺は弱い。


「その、なんでここに」
「おお、そうだった。若、お前に話がある」


跡部さんが俺に話?
部活のことだろうか。


「な……」
「若、好きだ」


……。
………。

は?



「何を仰ってるんですか」
「好きだ」
「ふざけないでください」
「ふざけてなんかねぇ」



何を言ってるんだこの人は。
男が男に告白?
しかもたくさん人がいる教室で。
あなたが来たせいで静まり返ったこの教室で。



「で、返事はどうだ?」
「あの、まだあまりよく理解できてないんですが」
「あーん?俺様がわざわざ告白してやったのになんだその態度は」
「告白って、どういう……」


そう言うと跡部さんは少しイラついたように舌打ちをする。
そして俺を引き寄せたかと思うと……。
キスしやがった。


「ばっ!バカじゃないんですか!」


俺は制服の袖口で唇を拭く。
女子はきゃーきゃー騒いでるし、男子はざわめいてるし。


「こういう意味だっつってんだよ、あーん?」
「あなたは……!」
「でも、嫌じゃなかったろ?」
「っ……」


否定はしない。
むしろ、涙が出るほど嬉しくて。
ああもう、本当にどうかしている。
教室中を見渡し俺のネクタイを引っ張ると、跡部さんは大きな声で宣言した。



「今日からコイツは俺様のモンだ。他の誰にも譲らねー」
「ちょっと!」


もう、本当にどうかしている。
こんな公衆の面前でこんなことが言えるこの人も、そんな言葉に喜んでいる自分にも。
呆れて物も言えない。


「いくぞ!」



跡部さんに手を握られ、引っ張られた。
今教室戻ったら死ぬ。
完全に死ぬ。
俺は恥ずかしさで前も後ろも横も見れず、うつむくしかない。


「もっと時と場所をっ!」
「あーん?んなのどうでもいいだろうが」
「どうでもよくないですっ!」
「で、返事は?」


ニヤリと微笑むこの人を見ていると、なんかもう返事をするのさえ腹立たしい。
どうせ、わかっているのだろう。


「好きですよ!好き!ああもうなんなんですか?!」
「おう、合格だ」
「……っ?!」



そう言うと跡部さんはもう一度俺にキスをした。









(どうしよう、教室戻れない)
(あーん?若になんかしたやつがいたら俺様が潰す)
(や、やめてください)





end




+++

日吉が好きすぎる自分が怖い。
多分サイト史上最短で書いたなこの話(゜∀゜)!
当然くおりてぃーも低い(゜∀゜)!






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