君が僕に魔法をかけた



好きだ、と自覚してから早数ヶ月。
特に何らかの進歩があったわけでもなく何もない、いつも通りの日常が続く。
ユリウスは僕の気持ちに気がついているのか、いないのか。
いや、鈍いあいつのことだ。
気が付いているわけもなく――……。


「ノエルっ」
「ユっ!ユリウス!!」


ふと頭に思い浮かべた人に声をかけられたため、いつもより大声を出してしまった。
ちょっと不自然だったかもしれない。
一瞬自己嫌悪に陥ったが、一方のユリウスは特に気にとめた様子もなく「隣、いい?」と言うと椅子を指差す。
僕は「あ、ああ」と頷くと手元のアンバーをギュッと握りしめ、なんとか平常心を保つことに成功した。
そんな僕の心境を知るはずもなく、ユリウスは「ありがとう」と微笑むと椅子に腰かける。
そして手元の本を開くと真剣に読み始めた。

「……」

しばらく無の時間が続く。
気が付いたら自習室には、現在僕とユリウスの二人だけになっていた。
僕は頬杖をつくと、ユリウスの方を見つめる。
元々僕にとってユリウスの存在は、鬱陶しいものしかなかった。
僕が努力で積み重ねてきたものを、あいつはなんでもないようにやってのける。
世間でいう“天才”と呼ばれる存在に、疎ましく思っていたのもあって、本当に嫌いだった。
しかし、はじめてコイツと魔法を語ったとき、僕は感じた。

“この男は、本当に魔法が好きなんだ”


魔法を語るユリウスは信じられないほど目を大きく見開いて、何よりとても楽しそうだった。

ああ、確かこのころからだったかもしれない。
魔法を愛するこの男に僕はいつのまにか惹かれていったのだ。



「ユリウス……」

本を読んでいるときのユリウスは吸い込まれそうなくらい綺麗な瞳をしている。
真っ直ぐ、真剣なその瞳に僕は思わず息を飲みこむ。
ふいに自分から信じられないくらい熱っぽい声がでた。
さすがになにかを感じ取ったのか、ユリウスはノエルの方に視線を動かした。

「あのさ、ノエル間違ってたら悪いんだけど……」
「な、なんだ」
「もしかしてノエル、俺のこと……好き?」
「ななななっ!」

コイツに気がつかれてしまった。
もう僕は死ぬしかない!
もしくはコイツを殺すしかっ!
僕はアンバーを再度握りしめる。

「ノエル、落ち着いて聞いて」

マントを引っ張られ、僕は無理矢理着席させられた。
ユリウスはいつになく真剣な眼差しを向ける。

「最近、ノエルがよそよそしくて……、なんか意味がわからないけど、すごく寂しくて。本当に嫌われたのかなって思って、そう思ったら情けないけど本当に苦しくて、アルバロ相談したんだ」

ユリウスは気持ちが高まると早口になる癖がある。
僕が口を挟むまもなく続けた。

「そしたら、もっとノエルのこと見てみれば、自分の気持ちもノエルの気持ちもわかるって言われて、ずっとずっと見てた。ここからは俺の憶測でしかないけど――……」

その途端、ユリウスは僕を抱き締めた。

「ユユユユリウス!?」
「俺、ノエルに恋してたみたい。どうしよう、すっごく好きなんだ」

突然すぎて声がでない。
しかし、この体制はちょっとマズイ気がする。
今は誰もいないが、此処は自習室だ。
誰かが来てしまうかもしれない。

「ユ、ユリウスの気持ちはわかった!だから、とりあえず離せっ」
「でもまだノエルの気持ち、聞いてない」
「なっ?!」

いつからコイツはこんなに意地が悪くなったのか。
僕は顔を真っ赤に染める。

「だだだだだだから!僕は……っ」
「……ノエル?」
「……っ!」

違う、わざとじゃない。
コイツは本気で言っているんだ。
本気で……不安なんだ。

「わ、わかった」
「うん……」
「その……お前の言う通りだ!」
「えっと、それって……どういうことなのかな。意味が分からない」

ああもう!
それくらい察してくれ!
鈍いユリウスに元々期待はしていないが。
こうして諦めた僕は、なにかが吹っ切れたように叫んだ。

「僕はお前が大好きだあああっ!」




+++




「よかった……」
「……なにがだ」

お互いに恥ずかしくて、ろくに顔が見られない。
ユリウスは「ちょっとね」と困ったように微笑んだ。

「……僕だって恥ずかしいんだ。正直に言え」
「え、でも……そうしたらノエルにカッコ悪いって思わちゃう」
「元々、お前のことをカッコいいとなど思っていない」
「えっ、そうなの?!どうしよう……ちょっとヘコんだ」

しばらく元気でないかも、とユリウスは思った。
けど、そんな不安はノエルの次の言葉ですぐに打ち消された。

「……嘘だ」
「えっ……?」
「なんでもない!!早く言え!!!」

なんでこんなに可愛いのだろう。
ユリウスは、決意したように頷くと「うん、実はノエルに好きって、大好きって言ってもらえると思ってなかったから……不安だった」と白状した。

「でも、両想いってすごいね。こんなに嬉しいなんて……意味が分からない」


そういうとノエルは恥ずかしそうに頬を染める。
ああ、やっぱり好きだ。
よく恋を魔法と呼ぶ人がいて、最初は意味がわからないと思った。
でも、今なら少しわかる気がする。

「ノエル、大好き」
「ぼ、僕もだ」

俺は魔法にかかってしまったのかもしれない、とユリウスは思った。

うん、やっぱり恋は魔法みたいだ。


end

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